第433話 ヨメルの偽善(2)
ディシウスが、中央の建物の入り口に近づいた時のことであった。
その建物の中から、小柄な男が現れた。
小学生の子供ぐらいであろうか。
だが、身にまとうローブの隙間から見える、ブヨブヨとしたクリーム色の体には、しわが無数に刻まれている。
ということは、結構なじじいなのだろう。
自分の身長よりも高い杖をその手にもち、ヨタヨタとディシウスの前に立ちふさがった。
老人は、ローブをさっとめくる。
すると、その頭のてっぺんから、二つの長い角がゆっくりと伸びてきたではないか。
いや、それは角ではない。
目だ。
角の先端に丸い目が膨らんできたのである。
ナメクジのように伸びた目が、ディシウスを小馬鹿にするように見つめていた。
ナメクジ老人が声を出す。
「これはディシウスではないか。なにか用か?」
ディシウスは、その老人の前でひざまずいた。
「ヨメル殿、頼みがある。この繭から魔人を分離してくれまいか……」
ディシウスは、肩に担いでいた虹色のまゆをヨメルの前に置いた。
ヨメルの目が、にゅるりと伸び、そのまゆを見下ろした。
「この繭は、荒神の気を吸収しているところだな……ということは、中にいるのはソフィアか……」
ディシウスは、何も言わない。
「お前は、このわしに、ソフィアと荒神を分離しろというのか……」
ディシウスはヨメルの目をにらみつけながら、うなずいた。
「残念じゃが、それは難しいの……仮に分離できたとしても、その瞬間に荒神爆発を起こしてしまえば、意味がないしの」
「仮にと言うことは分離できるのか? やってくれ! 頼む!」
「お前、今の状態のソフィアを分離しても、ドロドロじゃぞ……おそらく、元のソフィアの意識や形態は残っておらんと思うが、それでもいいのか?」
言葉を詰まらせるディシウス。
そんなディシウスを見ながらヨメルは考える。
この繭の中には、魔人と荒神が入っている。
そして、その荒神の気を吸い取ろうと、魔人の体が溶けている状態なのだ。
もしもだ、この状態に、自分の研究の成果を試してみることができれば、面白いことができるかもしれない。
ヨメルの顔がうすら笑いを浮かべていく。
「ディシウス。要はソフィアが戻ればいいんじゃろ。方法はないこともないぞ」
ヨメルは自分の顎を撫でながら、もったいつけながらしゃべりだした。
「どんなことでもする。だから、ソフィアを救ってくれ」
「そうかそうか。なら、この荒神とソフィアを融合するというのはどうだ?」
「それでは、ソフィアはどうなるんだ?」
「ソフィアの体に神の力を宿すんだ。これなら、ほぼ、ソフィアだろうが」
ほぼ?
ディシウスは何か引っかかるものを感じた。
だが、現状、この繭からソフィアだけを引きはがすことは不可能のようである。
ならば、ヨメルが言う、ソフィアを基にした神との融合体が一番可能性が高いのかもしれない。
だが、それは、本当にソフィアなのか?
「本当にソフィアが戻るんだな?」
「わしを誰だと思っている。魔の融合加工の第一人者のヨメル様じゃぞ!」
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