第419話 救える命は何人だ?(4)

 一之祐は、耳の穴をほじった指に息を吹きかける。

「まぁ、いい。大方、あの地中に潜むでかいエイの腹の中だろう?」

 ドキッとするソフィア。

 ビンゴである。

 まぁ、魔人国側は、人間たちのように駐屯地と言うような城塞を構えていない。

 そもそも統制が取れない魔物たちの集まりだ。

 そのような城塞を設けても維持管理することできないのである。

 ならば、大切なキーストーンをどこに隠せばいいのであろうか。

 魔人たちが考えたのは、超大型の魔物の腹の中であった。

 超大型の魔物であれば、人サイズの魔人なら腹の中に自由に出入りできる。

 その腹の中の奥深くの秘密の場所にキーストーンを隠しているのだ。

 そして、作戦の状況において、出したりしまったりしているのである。

 ちょっと待て。

 それなら、第六の城壁で死んでいる超大型のガンタルトはどうなのだ?

 当然、用意周到なガメルのことである、超大型のガンタルトを特攻させるときに、腹の中にしまっているキーストーンを取り出し、第六のフィールドのどこかに隠したのだ。

 と言うことは、第六の魔人フィールド上のどこかに魔人国のキーストーンがあるということなのだろう。

 意外と簡単に見つかるところに隠しているのかもしれない。

 だって、隠すような建物など魔人フィールド側には、そもそもないのだから。


「そのエイの居場所だけ教えろ。そして、俺が、そのエイのもとに行っているとハトネンに伝えろ。それならいいだろう」

 顔を上げるソフィア。

 確かに、それならば、キーストーンの場所を教えたわけではない。

 屁理屈である。

 しかも、この男は、その事実をハトネンに伝えろと言う。

 そんなことを伝えれば、ハトネンのことだ、おそらく慌てるだろう。

 なら、一之祐に向かって魔物や魔人たちの一斉攻撃が向くことが分からないのか?

 いや、そんなことは馬鹿でもわかる。

 と言うことは、この男は、キーストーン奪取が目的ではないのかもしれない。

 どういう事だ?

 そもそも、それでは、マリアナを止めることにはならないではないか。

 ソフィアは一之祐をにらみつける。


 ディシウスもまた、その意味が分からぬためバカにしたような笑みを浮かべた。

「そんなことに何の意味がある?」


 だが一之祐はさらにバカにしたような笑みを返した。

「お前、この俺を弱いと思っているのか? と言うことは、お前も相当弱いやつだと言うことだな」


 弱いと言われたディシウスの口角が引きつった。

 確かに、この男は強い。

 魔物の大群に囲まれても、しばらくは持ちこたえることはできるだろう。

 俺だって、それぐらいはできる自信がある。

 その俺と、対等、いや、それ以上なのだから、もっと時間を稼ぐことができるかもしれない。

 であれば、境界線上に残るのは、ハトネンとマリアナだけになる。

 マリアナに近づいたとしても、誰も気づくことはないだろう。

 そうなれば、マリアナを説得する時間もできるかもしれない。

 ディシウスはなんとなく、一之祐が言わんとすることを理解した。

 そして、ソフィアに命令する。

「こいつに、モビィティッツの居場所を教えろ」

 そうか、あのデカいエイの名前はモビィティッツと言うのか、と言うことは、もしかして、女の子とか? 

 モビィディックだったら白クジラの男の子だったのに!


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