第418話 救える命は何人だ?(3)

「お前、アリューシャという神はどうする気なんだ?」

 一之祐は、それとなくディシウスに尋ねた。

「俺には関係ない……」

 ――ほう、やはり。

 大方、荒神の気を払うと、そばの女魔人の命がなくなるとかそんなとこなのだろう。

 そうであれば、この男、女のために一人で戦う覚悟を決めたというのか。

 面白い。

 だが、この女魔人は、二人の神を助けたい。

 ということは、命を懸けて妹のアリューシャという神を救いたいのだろう。

 最悪、この男魔人が救えるのは、3人の女のうち一人の女だけ。

 むごい選択だが、この男には、最初から答えは出ているのか……

 だが、ここで、マリアナを止めれば二人の女を救うことができるかもしれない。

 だからこそ、聖人国のキーストーンか……

 アホだな……だが、嫌いではない。


 ディシウスが怒鳴る。

「話したから、俺たちはもう行くぞ!」

「どうするつもりだ」

 一之祐は尋ねた。

 ディシウスは一瞬ためらった。

「マリアナと言う神に力を使うのをやめてもらう」

 その答えに一之祐は馬鹿にするかのように笑った。

「お前、そりゃ無理だろ」

 ディシウスは言葉に詰まる。

 確かに一之祐の言う通りなのだ。

 マリアナに神の恩恵を使うなと頼んでも無理な話かもしれない。

 だが、今はそれしかないのだ。

 一之祐は続ける。

「ならアリューシャはどうする。助けるとでも嘘をつくのか……」

 もう、何も答えられないディシウス。

 一之祐に腹の中を見透かされているという事よりも、マリアナにどういえばいいのか本当に分からないのだ。

 ただ、アリューシャを救うと言って、本当にアリューシャを救うとなると、ソフィアが死ぬのである。

 それが嫌だから、今、自分はここにいるのだ。

 なら、一之祐が言うように、嘘をついて、マリアナを鎮めるのも一考だ。

 それも仕方ないかもしれない。

 今、マリアナに荒神になられれば、たちまちソフィアはその気を払わされることだろう。

 それに対して、アリューシャなら、頑張ったけれども、間に合わなかったとごまかせるかもしれない。

 こんな卑屈な考えを巡らせるディシウスは、まるで自分がハトネンになったような気がした。

 こざかしい考えを巡らせるハトネンとバカにしていたのにである。

 本当に嫌になる。

 だが、どうしようもないのだ……

 こんな時、ハトネンの持つ疑念のダイスでもあれば、どれが一番可能性が高い未来なのか分かるというものなのに。

 ディシウスは、少々ハトネンがうらやましいと思ったが、そんな自分をすぐさま嫌悪した。


 何も答えぬディシウスを見て、一之祐がため息をついた。

「はぁ、なら、魔人国のキーストーンはどこにある。教えろ」

 ディシウスとソフィアは突然の提案に、唖然として一之祐をにらんだ。

 この男は何を言っているのだ。

 どさくさに紛れて、魔人国のキーストーンを狙うつもりなのか。

 当然、口を紡ぐソフィア。

 答えるはずもなかった。

「お前たちのキーストーンを俺が奪えばこの戦いは終了だ」

 一之祐は頭をかきながら、解決方法を提案した。

 確かにその方法であれば、この第七フィールドの戦争は終結するかもしれない。

 ならば、マリアナも闘う必要がなくなるというものだ。

 確かに、一理ある。

 一理あるが、そんな提案を飲めるはずがなかった。

 だいたい、ソフィアはハトネンの神民魔人である。

 それを教えるということは信義に反する。

 そして、ディシウスも同じことである。

 ディシウスがここでしゃべれば、ソフィアの立場が危ういのだ。

 そんな事、教えられるわけがない。

 大体、そんなことをしなくても、いい方法があるではないか。

「なら、おまえの聖人国のキーストーンを俺たちに渡しても同じことだろうが!」

 確かにそうである。

 魔人国のキーストーンだろうが、聖人国のキーストーンだろうが、相手に渡れば同じことである。

 一之祐は馬鹿にしたように返した。

「残念だな、俺にはその女を救う義理がない!」

 ――ぐっ!

 腹の中を見透かされたディシウスは、言葉に詰まった。

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