第417話 救える命は何人だ?(2)

「で、女! 神がどうしたというのだ」

 もう、戦う気がない一之祐は、自分の部下にでも質問するかのようにソフィアに尋ねた。

 一応、念のために言っておくが、ソフィアは魔人だ。

 人間の敵である。

 一之祐が騎士であったとしても、それは人間の世界での事。

 魔人であるソフィアにとっては、その身分など関係ないのだ。

 なので敵に対して、そう簡単に情報を教えるバカなどいるはずもない。

 案の定、ソフィアは一之祐をにらみつけ、口を開こうとしなかった。

 それどころか、ディシウスの腕を引き、早くその場から離れようとしていた。

「ちょっと待てよ! この勝負、俺の勝ちなんだから、それぐらい教えろよ! なんか切羽詰まってんだろ」

 一之祐は刀を肩に置き、体を楽しそうに揺らす。

 駐屯地が大変なことになっているかもしれないのに、目の前にもっと大変そうな奴がいそうな気がするのだ。

 自分がどこに進めばいいのか分からず困惑するような女の目が潤んでいるのだ。

 まさに迷子の迷子の子猫ちゃん。

 困ってしまった犬のお巡りさん、もとい一之祐は、ラン! ラン! ララン! ラン! ラン! ララン! 

 まぁ、駐屯地は、何とかなるだろう。

 自分の部下を信じているのか、いい加減なのか分からないが、とにかく、ソフィアの様子が気になって気になって仕方ないのだ。


 ディシウスが、ソフィアに話せと命じた。

 一之祐の言うとおりである。

 ――俺は勝負に負けた。

 このまま、この男に借りは作りたくない。

 まして仮に一之祐に教えたところで相手は神、どうなるものではない。

 そんな思いだったのかもしれない。

 ソフィアは、事の顛末を一之祐に話した。

 そして、今、マリアナという神が荒神化しかけている事実をつげた。


 一之祐はそれを静かに聞く。

 まぁ確かに、この騎士の門内でやっていることは戦争だ。

 戦争に道理を求めても仕方がない。

 殺し合いに正しいもクソもありはしないのだ。

 勝つためには、いろいろな方法を考えるのが指揮官の務め。

 しかし、神を使った作戦とは、意外な一手を使う。

 しかも、妹の神を人質に取って。

 小賢しいハトネンなら、やりそうである。

 だが、その妹も荒神になっている。

 そして、この女が救えるのは一人だけ。

 一人の荒神の気しか払えない。

 このまま、マリアナも荒神になってしまえば、どちらかの神は荒神爆発を起こしてしまうのだ。

 だが、ここに来た女魔人は、神を止めたいといった。

 ということは、神はすでに荒神の一歩手前か

 だが、荒神爆発を起こせば、第七の騎士の門内のフィールドのすべてが吹き飛ぶ。

 聖人国、魔人国のフィールドにかかわらず、この騎士の門内の空間すべてだ。

 さすがに、ハトネンもそこまで、バカではないはず。

 だから、それは避けたいはずなのだ。

 ということは、ハトネンは、マリアナの荒神の気を払わせるつもりなのだろう。

 ならば、アリューシャは最初から見殺しということか。

 己が功名のために、神を見殺しにするというのか。

 少々、そのやり口には腹が立つ。

 そして、どうやら、この男魔人はマリアナという神を荒神にしたくはないようである。

 荒神になるまでに聖人国のキーストーンを奪う腹積もりだったのか。

 しかも、一人で。

 お笑いだ。

 だが、待てよ。

 この作戦を台無しにしたいのであれば、その妹のアリューシャを救出して、荒神の気を払えば済むことではないか。

 ハトネンの配下の何人かを締め上げれば、おそらく、居場所ぐらいはわかったことだろう。

 しかし、この男魔人はしなかった。

 それよりか、無謀にもキーストーンを狙ったのだ。

 ということは、この魔人もまた、アリューシャの荒神の気を払うつもりはないということか。


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