第406話 獅子の魔人と蝶の魔人(4)

 砂塵吹きすさぶ第7フィールド。

 そう、第7の騎士の門内のフィールドは砂漠なのである。

 今日は、その砂漠の機嫌が悪い。

 何かにいら立つかのように、砂嵐が渦巻いていた。

 その砂嵐の中をまっすぐに歩く一人の魔人。

 獅子の顔を持つ上半身裸の体は、盛り上がる筋肉で覆われている。

 その歩く背後の砂地には、一本の線が深く刻まれていく。

 その線は、魔人が持つ大剣によって刻まれていた。

 かぎ型の先端が、砂の表面をクワのように削っていく。

 魔人の体が大きいためか手に持つその大剣は、小さいようにも思えた。

 しかし、おそらく、大の大人ほどの刀身だろう。

 その魔人ですら、両手で持って振り回すのがやっとの代物ではないのだろうか。

 だが、その剣でつけた一筋の線も、砂嵐によって、たちまちにその長さを短くしていた。


 魔人は、聖人国と魔人国のフィールドの境界線を躊躇なく超えた。

 この境界を超え聖人国のフィールドに入るということは、神民スキルや騎士の不死性を失うことにつながる。

 すなわち、神民魔人においては魔獣回帰が使えない。

 魔人騎士については、絶対防壁である騎士の盾が発動しないのである。

 そのため、門内の戦場においては、このフィールドの境界線をいかに広げて、相手側の領域に押し込むかが重要な戦略なのだ。

 しかし、この魔人にとっては、そんな境界はそもそも関係なかった。

 一般魔人である彼にとっては、そこが魔人国のフィールドであろうが、聖人国のフィールドであろうが、自分がやることは同じこと。

 ただただ、この大剣をふるうのみ。


 まさに、その時であった。

 魔人は咆えた。

 渾身の力を込めて大声で叫んだ。

 うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!

 その咆哮は、砂嵐を吹き飛ばす。

 先ほどまで、辺り地面を覆っていた黄色い風景が、真っ青な空へと移りゆく。

 その晴れていく砂嵐の中から、もう一人の男の影が近づいてきた。

 その男は、正面の聖人国の駐屯地からきたようである。

 肩に一本の白い剣を担ぎ、まるでウォーミングアップでもするかのように残った腕をぐるぐる回しながらやってくる。

 その動きに合わせて束ねた長い黒髪が揺れ動く。

 しかも、上半身は裸。

 ただ、裸と言っても、そのむき出された肉体は均整の取れた筋肉。

 まさに、剣士といった雰囲気である。

 そう、この男は、第7の騎士、一之祐であった。

 一之祐は、苦笑いを浮かべながらつぶやいた。

「魔人国にも、バカがいるようだな……」

 どうやら、一之祐もまた一人のようである。


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