第405話 獅子の魔人と蝶の魔人(3)

「あのね……今度、私……ハトネンさまと一緒に、第7の騎士の門内で大規模な作戦を実行するんだ……」

 そういうソフィアは、何か辛そうに言葉を詰まらせた。

 その、気配を感じたディシウスは目だけでソフィアの様子を確認するも、何も言葉をかけなかった。

 ソフィアは、続ける。

「今捕まえている神様を使って、人間たちを攻撃するんだって……」

 そういうと、今度はソフィアは膝を抱える腕に頭を押し付けた。

 ディシウスは思う。

――それでハトネンはソフィアを従軍させるのか……

 と言うのもソフィアは、蝶の魔人である。

 この蝶の魔人は、魔の世界に伝わる、荒神の気を払うことができる魔人であった。

 すなわち、その戦場で、神が荒神化しかけたら、ソフィアを使って浄化し、荒神爆発を起こさないようにしようというわけである。

 だが、神がおいそれと、魔人のいう事を聞いて、人間たちを襲うのであろうか?

 いや、それはないだろう。

 嫌だったら、姿を消して、消えてしまえばいいだけの事なのだ。

 魔人ごと気に従う神などいるものか。

 しかし、どうにも気になるディシウスは、つぶやいた。

「かといって、神も簡単には、ハトネンのいう事を聞かないだろう……心配するな」

 ソフィアは押し付けた頭を横に振る。

「ううん。その神様……妹を人質に取られてるんだって……」

「なに!!」

 ディシウスは驚いた。

 ハトネンはずるがしこいが、臆病である。

 そのため『疑念のダイス』をふって、確率の高い未来を常に選択しているのだ。

 そのハトネンが、神をも恐れぬ大胆な作戦。

 まんざら、ソフィアがいう事が嘘ではないことが理解できる。

 ということは、戦場で人間と戦わされる神は、限界まで使役されることになるのだろう。

 ならば、行きつく先は荒神化。

 やはり、そのためか……

 ソフィアを従軍させる理由は、荒神を払うため。

 だが、それは、ソフィアの死を意味する。

 魔の融合国の荒神を払う儀式は、人間たちのものと大きく異なる。

 魔人が作りだす繭の中に荒神を取り込み、魔人の体へと荒神の気を移していくのである。

 繭から出た荒神は浄化され一時的姿は消えるものの、すぐに復活できる。

 だが、荒神の気を吸い取った魔人は、体がドロドロに溶けおち腐り死んでしまうのだ。

「ソフィア! そんなところに行くな!」

 ディシウスは飛び起きると、ソフィアの肩を強くゆすった。

 しかし、ソフィアは顔を振る。

 その緑の瞳からは、涙がとめどもなく流れ落ちていた。

「できないよ……だって、私、ハトネン様の神民魔人だよ……」

 そんなソフィアを見るディシウスは奥歯を強く噛みしめる。

 ――くそ!

 だから神民魔人と言う身分は嫌いなんだ!

 何が騎士のためだ!

 そんなのくそくらえ!

 だが、神民魔人である以上、その主である騎士の命令は絶対である。

 ソフィアにその命令に背けと言うことは、騎士に殺されろと言う事と同義。

 結局、どちらに転んでもソフィアの命は無いのだ。

 ディシウスは、立ち上がった。

「その作戦は、いつだ!」

「明日……」

「分かった! 神が荒神化する前に、俺が人間どもを全て潰してキーストーンを取ってきてやる!」


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