第403話 獅子の魔人と蝶の魔人(1)
「しかし、お前たち、どうやって、この城まで来たのだ?」
ミーキアンは不思議に思った。
いくらエメラルダが手練れとはいえ、魔人国を道案内なしで歩くのは自殺行為に等しい。
まして、何もできそうにない子供らを二人連れてとなると、たちまち、魔物や魔人たちのエサになることだろう。
ミーキアンも、みすみすエメラルダを死なせるようなことはしたくなかった。
だからエメラルダが、魔の国にくると分かっていれば、その使う門の近くでリンを待機させておくぐらいはできたのである。
しかし、今回のエメラルダの訪問は突然だった。
ミーキアン自身も、自分の城下の神民街にエメラルダが入った時点で、その存在に気づく始末である。
まぁ、何事も無くてよかったと言えばよかったのだが、やはり、どうやって生き残ったのかが気になった。
「人間の奴隷に助けられました」
エメラルダは答えた。
――人間の奴隷だと?
と言うことは、どこぞの魔人の手のものか……
ミーキアンは、何か嫌な気を感じた。
「誰の奴隷だ?」
「たしかディシウスと申しておりました」
「そうか……」
と答えるのみのミーキアン。
やはり、ディシウスの手のものが動いているのか。
ミーキアンは身にまとう天鳥の羽衣を手に取って見つめた。
――確か、ディシウスが、この羽衣も寄こせとぬかしておったが、あの小僧、まだあきらめておらぬのか……馬鹿者が……
タカトは、ビン子にしばかれた頭をコキコキ真横に曲げながら、元の位置に戻した。
少し落ち着いたタカトは、そーっとエメラルダの背中から顔を出すと、ミーキアンに声をかけた。
「あのぉ……少しよろしいでしょうか?」
「今度しゃべったら喰らうと言っただろうが……」
ミーキアンは、少しバカにするかのように、うっすらと笑みを浮かべながらおどした。
だが、もうその言葉には、本気でタカトを食らおうという殺意は明らかになかった。
だが、この男がもしかしたら、ミーアが心変わりしたかもしれない原因である。
ミーキアンが、少々気になって、タカトを少しおちょくってみたくなったのも事実である。
「ひぃぃぃぃ! すみません! スミマセン!」
タカトはカメのように頭をすぼめ、エメラルダの背中の影へとひっこんだ。
そのおびえ具合にミーキアンは、乾いた笑みを浮かべ飽きれることしかできなかった。
――こんな奴がな……まさかな……
おびえてみたり、調子に乗ってみたり、本当に忙しいやつである。
「まぁよい、言ってみろ」
タカトは、再び頭を出して尋ねた。
「あのですね……ミーキアン様のお知り合いに獅子のような顔をして左腕がない大きい魔人さまはいらっしゃらないでしょうか?」
「知っているぞ」
ミーキアンはすぐさま答えた。
――何ですと!
いきなりヒット! クリーンヒット! これは三塁打クラスの手ごたえ!
今まで、誰に聞いてもその魔人のことなど知らなかった。
家族の仇である獅子の顔をした魔人の痕跡に、まったくたどり着かなかったというのに、ここに来てあっさりと。
ミーキアンは面白そうに笑いながら続けた。
「それは、お前たちを助けた奴隷女の主人だぞ」
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