第401話 雌クジャク(5)

 ――えーい、どうにでもなれ!

 やけくそになったタカトは開口一番

「ミーキアンさま! おっぱいもませてください!」

 両手を突き出し、頭を下げた。

 唖然とするビン子とエメラルダ。

 一瞬たじろぐミーキアン。

 周りの魔人たちの気配がざわついた。


「この下種が、魔人騎士ミーキアンと知ってのことかぁぁぁぁ!」

 だが次の瞬間、ミーキアンの怒りが爆発する。

 まぁ、当然と言えば当然か……

 周囲のざわついた魔人や魔物たちの気配が霧散するかのように逃げ去った。


「魔獣回帰!」

 その言葉と共に、ミーキアンの黒いドレスが破れ散る。

 揺れる巨乳

 美しいボディラインがみるみる大きくなっていく。

 そして、そこには、騎士スキルの魔獣回帰により大きなクジャクに戻ったミーキアンの姿があった。

 クジャクは大きく翼を広げ、胸筋を膨らませた。

「私の肌に触れるのは、あの人だけ! お前のような虫ごときが近寄れると思うな!」

 その緑の目が、烈火のごとく怒りに震えている。

「エメラルダは朋友成れど、貴様は関係ない。今すぐ食ろうてやる」

 タカトはビビってすぐさまエメラルダの陰に隠れた。

 オッパイをもめたら死んでもいいと思っていたが、その考えはすぐに消えた。

 やっぱり、死ぬのは嫌ぁ!

 ビン子が、あきれた様子で、そんなタカトを見つめていた。

 エメラルダが、ニコニコしながらとりなす。

 まるで、絶対にタカトがミーキアンに食べられないことが分かっているかのような余裕である。

「ミーキアン殿、この者は私の一番大切な方です。どうかお許しを」

 ビン子が一瞬ムッとする。

 クジャクの緑の双眸が、エメラルダをにらみつけた。

「このような下種がか!」

「はい」

 躊躇せずに答えるエメラルダ。

 ミーキアンは、目をつぶると、自らを落ち着かせるかのように大きく息を吐き出した。

「下種な虫よ、今後口を開いたら食い殺す。よいな」

「すみません。ミーアから聞いていた話とかなり違うので、本当に申し訳ございません」

「ミーアだと。ミーアから何を聞いたというのだ」

「ミーキアンさまなら笑って許してくれると聞いていたものですから……本当にすみません」

 エメラルダの背中に隠れ、ひたすらコメツキバッタのように頭を下げるタカト。

「あの堅物ミーアが、そのような事を言うわけなかろうが」

 タカトの言葉を信じないミーキアン。

 エメラルダが笑いながら援護する。

「確かにミーアは言っておりました。でも、本当にタカト君が言うとは思ってませんでしたけど」

 万命寺で治療を受けていた際に、タカトを交えて話した笑い話。

 てっきり冗談とばかり思っていた。

 だが、タカトにとっては、冗談ではなかったようである。


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