第400話 雌クジャク(4)

 狭い通路を抜けると、そこはまた別の大広間になっていた。

 その広間の真ん中に配置された大きな椅子に、褐色の肌の女が腰かけていた。

 座っている姿であっても、その体形がバランスが取れているのがよく分かる。

 身にまとう黒いタイトのドレスが、その美しいボディラインを描き出しているのだ。

 ヒールが輝く長い足が大胆に組まれていることで、ドレスに入ったスリットが大きく口を開け褐色の太ももを覗かしていた。

 ひじ掛けに立てた腕に頬を乗せ、切れ上がった目尻からのぞく美しい緑の目が、タカトたちをじっと見つめている。

 女は動くことなく声を出す。

「久しいの! エメラルダ」

 エメラルダは、その女の前で膝まづいた。

「ご無沙汰しております、ミーキアン殿」

 頭を下げるエメラルダ。

「敬語はよせ! 同じ騎士であろうが」

「いや、今や私はただの罪人の身、礼はわきまえているつもりでございます」

「そうか……だが、面倒だ。今まで通りでいいぞ!」

 その様子を見るタカトは思う。

 ――やっぱりエメラルダの姉ちゃんは、魔人騎士とつながっていたという噂は本当だったんだ。


 エメラルダは、何かを催促するかのようにタカトに手を差し伸ばした。

 はっと気づくタカトは、とっさに、ポケットから一枚の手紙を取り出すと、エメラルダに手渡した。

 その手紙は、ミーアがミーキアンに宛てたものである。

 タカトはその手紙をエメラルダのもとに届けようとしていたのであるが、てっきり忘れて買い物に夢中になる女たちのスカートを覗こうとしていたのであった。

 その手紙を受け取ったエメラルダは、ミーキアンへと差し出す。

 それを、リンが受け取り、ミーキアンへと取り次いだ。

 蝋封を開け、中身を取り出したミーキアンは、手紙に目を通す。

「その男がタカトか……?」

 手紙から目を離さことなく、ミーキアンは尋ねた。

 ――気のせいか……この男から、かすかにあの憎きアダムの臭いが……

「ハイ……」

 いまだ膝まづき、うなずくエメラルダ。


 一方、何をしてよいのか今一分からないタカトは、きょろきょろとあたりを見回すばかりで落ち着きがない。

 部屋の柱の影からチラチラと魔人らしきものの姿が見える。

 どうやら、ミーキアンの配下の魔人たちが、興味深げにタカトたちを伺っているらしい。

 よくよく見ると、それは一匹ではない。

 ぐるりと見渡すタカト。

 ゾクリと背筋が凍った。

 姿は見えない、だが、確実にいる……

 既にタカトたちを取り囲むかのように魔人や魔物たちの気配が無数にあった。

 ――もしかして、俺、食べられるとかじゃないよね……

 あの手紙、ミーアからミーキアンに宛てた手紙だよね。

 封をされていたから、中身は見てないけど……。

 ミーアの事だ、俺のことだっていいように書いてくれているはず。

 いや……待てよ……もしかしたら、おっぱいの事しか目がない役立たずなどと書いてあるかもしれないぞ。

 もし、そんなこと書いてあれば、俺っていらない子じゃん。

 でも、エメラルダの姉ちゃんミーキアンって仲良さそうだし。

 と言うことは、ミーアだってそのことは当然、知っているわけだよな。

 ちょっと待てよ……エメラルダの姉ちゃんが、魔人国で生きていくための見返りとしての献上品とかじゃないよね。俺。

 えっ? 俺って食べられるかな。

 やっぱり食べられちゃうのかな……

 食べられたら、もう、おっぱい揉めないじゃないか……

 せめて、一揉み。

 できることなら巨乳を一揉み。

 あの褐色の大きなオッパイ……ミーアから聞いていた以上に大きい……

 できれば、あのおっぱいを揉みたい!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る