第380話 超覚醒(2)

 エメラルダの顔がさらに険しくなった。

 カエルでもてこずったのに、そのカエルたちがおびえて逃げるほどの魔物とは。

 しかも、今のエメラルダは、武器を持たぬ素手である。

 唯一の武器であった黄金弓は、大岩の上に置いてきた。

 その大岩は、ゴリラたちの背後に位置している。

 ゴリラを、避けてその大岩までたどり着くことはできるのだろうか。

 だが、そんなことを考えても仕方ない。

 エメラルダは、ゴリラたちの一瞬のスキを突き大岩へと走った。


 エメラルダの金色の短髪が、ゴリラの横を滑りぬけ、大岩へ上へと飛び跳ねた。

 この弓さえあれば!

 焦るエメラルダの右手が、今だ空中にある体から黄金弓へと急いで伸びた。

 しかし、弓には届かない。

 エメラルダの右手は空を切る。


 エメラルダの体が、その途中の中空で動きを止めていた。

 うぐっ!

 エメラダは、押しつぶされた声を出す。

 息ができないエメラダはもがく。

 そう、エメラルダの首を何者かがつかみあげていたのだ。

 その手を外そうと、エメラルダの手が懸命にもがいている。

 しかし、離れない。


 その手の主は、ゴリラとは別の魔人のものであった。

 どうやら、この魔人はゴリラの主らしい。

 だって、魔人たちもまた、ゴリラにそっくりなのである。

 唯一の違いは、服を着ているかどうかぐらい。

 って、ほとんど一緒じゃん!


 3匹のゴリラに3匹の魔人。

 ――万事休すか……

 エメラルダは悔しそうに魔人の緑の目をにらみつけた。

 だが、その瞳の色は、酸欠により、散りかけていた。

 ――マズイ……意識が飛ぶ……


「おい! 弟たちよ! ここに生きのいい人間がいるぞ!」

 エメラルダを掴む魔人は、他の魔人に声をかけた。

「おいおい兄者! こんなところに人間なんているわけないだろうが、どうせ、どこかの魔人の奴隷だろ! もし、それが魔人騎士だったりしたら、そんなもの食ってみろ、俺たちが、食い殺されるぜ!」

 そうである、ココは魔の融合国。すなわち、魔人世界である。

 人間は、魔人や魔物のエサでしかないのだ。

 唯一、生き残る方法は、魔人の所有物の奴隷となることである。

 それも、より強い魔人の奴隷にだ。

 もし、他の魔人が所有する奴隷を害すれば、当然、その所有者の魔人の報復は避けられない。

 力こそ正義、それが、魔人世界の掟なのである。


 エメラルダを掴む魔人は、少しドキッとした表情を見せた。

 次兄魔人がいう事も一理ある。

 奴隷でない人間が、こんなところをうろついている方が、おかしいのだ。

 だが、確認するぐらいはいいのではないか。

 奴隷なら、胸に所有者である魔人の名前の刻印があるはずだ。

 長兄魔人は、エメラルダの服を引き裂いた。

 あらわになるエメラルダの胸。

 その巨乳が、引きちぎられた服の反動で、大きく波打った。

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