第379話 超覚醒(1)

 エメラルダは、小門へ駈け込むネコミミのオッサンを掴もうと手を伸ばす。

 しかし届かない。

 ――先を越された!

 と言うのも、エメラルダもまた、タカトたちを連れ、小門へと引き返そうと考えていたのだ。

 だが、目の前から迫りくるカエルたち。

 このカエルたちを払いながら、タカトたちを小門へと誘うのは困難であった。

 そんな時、ネコミミのオッサンが、仲間をいけにえにして、自分だけ小門へと逃げこんだ。

 逃げただけなら、まだいい。

 だが、奴は、必ず、小門の洞穴に潜んでいる。

 闇の中で息をひそめ、毒のついたナイフを構えているにちがいない。

 そして、エメラルダ達が戻ってくるのを今か今かと伺っているのだ。

 エメラルダ自身が傷つくのなら、まだいい。

 だが、今はネコミミオッサン一人である。

 ならば、確実に仕留めることができる得物を狙うだろう。

 そう、今度はタカトやビン子が毒のナイフで貫かれるかもしれないのだ。

 毒が回った体は動かない。

 それを助けるために、すすんでエメラルダが犠牲になったとしても、毒の回ったいずれかは、確実に死ぬだろう。

 いや、それどころか、生き残った片方も、自分だけ逃げ帰るなんてことはしないに違いない。

 そういう子たちなのだ。タカトとビン子は。

 さすれば、最悪、全滅もありうる。

 そんなところに、タカトたちを連れては戻れない。

 悔しさがにじむエメラルダは、強く唇をかみしめた。


 カエルたちは、いけにえにされた暗殺者の体に群がると、たちまち、体と体が積み重なって、いつしか大きな球を形成していた。

 カエルがカエルを押しのける。

 口に入った肉片を、無理やり別のカエルが頭を突っ込み奪い取ろうとしている。

 見る見るうちに、暗殺者の体は、タダのちぎれた肉塊へと変わっていった。


 その様子にたじろぐタカトたち。

 だが、次の瞬間、群れたカエルたちの大玉が、パンっと、はじけ飛んだ。

 まるで、水風船が裂けるかのように、カエルたちの肉片が周囲に飛散する。

 その大玉があったであろう場所には、大きなサルが立っていた。

 いや、サルと言う可愛いものではない。

 ゴリラだ。

 それも、その伸長は、バスケットボールのゴールネットはゆうにあろうかと言う大型のゴリラである。

 それが、3匹……

 カエルたちは、そのゴリラを見るや否や、四方八方に逃げ散った。

 よほど、そのゴリラが怖かったのであろう。

 いや、力関係で歴然とした差があるのだ。それほどはっきりとした差が。


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