第378話 半魔の犬(4)

「び・ビン子!なんでお前が、そんなことを知ってるんだ! そんなわけあるわけないだろうが! はははっはは」

 タカトは慌てて目をそらす。だが、その態度から、その内容が真実であることがバレバレであった。本当に、タカト君って、嘘つくのが下手なのね。


「だって、この子が言ってるよ……」

 ビン子は、半魔の犬の頭を撫でた。

 犬は嬉しそうに、ビン子の顔をなめている。

「お前、この犬野郎の言うことが分かるっていうのか!」

「犬野郎じゃないって……俺はハヤテと言う名があるんだ! だって」


 そうか、そうか、この半魔の犬の名はハヤテと言うのか。

 って、会話できとんかい!


 そうである。

 ビン子がつけていた「ワンちゃん(以下略)」の耳は、心細い女性の声を拾うことはできなくても、半魔の犬の声を拾うことができていた。

 そして、マヌケのように見えるその鼻は、なんと、半魔の犬と会話ができるのであった。

 ――俺の「ワンちゃん(以下略)」が犬の声しか拾えないだと……またもや失敗か……クソ!

 いやいや、犬と会話ができる方が凄いと思うのは筆者だけでしょうか?


 ――害はなさそうね。

 エメラルダはその様子に、犬への警戒を解いた。

 だが、それで、周りの状況がよくなったわけではない。

 今だに周りにはカエルの群れ、そして、目の前にうずくまり、倒れる暗殺者が二人。

 どうする……

 どうする……エメラルダ


 そんな様子にカエルたちは、お構いなし。

 牙が生えた口を大きく開けると、目の前に転がる得物たちに一斉に飛びかかった。

 もう、どの人間だろうが、特に関係ない。

 ウサミミのオッサンだろうが、暗殺者だろうが、タカトだろうが、エメラルダだろうが、ビン子だろうが、どれでもいいのだ。

 思い思いにカエルたちが、自分の定めた目標に飛びかかった。


 ウサミミのオッサンは、仲間の暗殺者の襟首をつかみ取る。

 ――仕方ない、ココは命あっての物種だ……

 渾身の力でオッサンの手は、暗殺者の体をカエルの群れの中へと放り込んだ。

 カエルたちの向きが、途端に変わる。

 一斉に、放り込まれたエサへと群がった。

 エメラルダに向かっていたカエルたちも途端に向きを変え、確実に食える得物が来たと言わんばかりである。

「今度会ったら確実に、刺身にしてやるからな!」

 ネコミミのオッサンは、捨て台詞を吐くと、身をひるがえした。

 このままここにいてもカエルの餌食になるだけだ。

 どうせ、エメラルダ達もカエルに追い立てられて小門へと逃げ帰るに違いない。

 ならば、洞穴の闇に紛れ、戻ってくるエメラルダを待ち伏せておく方が安全と言うものだ。

 もしも、もしもだ、エメラルダが帰ってこなければ、それは、魔物に食べられたという事だろう。

 レモノワには、そのように報告しておけばいい。

 もう、証人となる仲間は誰一人として生き残っていないのだ。

 後は、小門の中の人間たちが、寝静まるのを待って、聖人国へと帰ればいい。

 ネコミミのオッサンは、背後に口を広げる小門の入り口へと駆け込んだ。


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