第372話 オッパイこそ正義!(2)

 タカトとビン子は、その声に反応し、すぐさまかけた。

 脱兎のごとく、懸命に逃げた。

 目の前に大きく口を開ける小門の黒い洞穴に、一目散に走る。

 その動きに呼応するかのようにカエルたちの輪が動く。

 一斉に無数のカエルたちの体が、空高く跳ね上がる。

 黄金弓につがえられた光の矢が天をさす。

 エメラルダが、タカトたちのもとに行かせまいと、矢を放つ。

 次々に飛び出す光の矢。

 エメラルダの上空を通過するカエルたちが、次々と落ちていく。

 だが、50もの数。

 それが一斉に動けば、数が多い。

 エメラルダの矢が、100発100中であったとしても、瞬時に100発撃てるわけでない。そう、すべてのカエルを打ち抜くことは不可能であった。

 タカトたちの背に、無数のカエルの口が迫っていた。


 小門まであと少し!

 タカトは懸命に走る。

 だが、こういう時に、ドジッ娘と言うものがいるのである。

 このドジッ娘がいてこそ物語は盛り上がるのである。

 そう、タカトの後を走っていたビン子がつまづいたのである。

 まぁ、よくあるあるである。

 勢いがついたビン子の体は、土ぼこりを立ててすべっていった。

「ビン子!」

 タカトは、咄嗟に足を踏ん張り、身をひるがえす。

 だが、その振り返った目の先にはカエルの口が大きく開く。

 ひっ!

 タカトは、頭を抱えてうずくまる。

 間一髪! その頭上をカエルの影が超えていく。


 ぎゃぁぁ!

 悲鳴が上がった。

 ――もしかしてビン子が、食われたのか?

 タカトは、恐る恐る頭を上げた。

 しかし、そこには地面に突っ伏したビン子の姿。

 ――あぁ、顔面からいったな……あれ……

 タカトは動かぬビン子を少々気の毒に思った。

 だが、確かに痛そうではあるが、カエルには食われてはいなかった。

 ある意味よかったではないか。


 では、あの悲鳴は誰のものだったのであろうか?

 もしかしてエメラルダ?

 タカトは、エメラルダのいるはずの大岩に目をやった。

 そこでは、タカトたちに近づこうとしているカエルたちに矢を放ち、エメラルダに近づくカエルを弓で打ち払っている姿があった。


 なら誰のもの?

 タカトは恐る恐る、小門の洞穴へと振り返る。

 そこには一人の黒い衣装をまとった人間らしきものの体。

 その頭があるべきところには、大きなカエルが一匹引っ付いていた。

 そう、それは、ヨークをすり抜けた暗殺者の一人であった。

 エメラルダを追って、小門から飛び出した。

 飛び出したのはいいが、突然、目の前には飛んでくるカエル。

 日の光に目がくらんだ暗殺者は、俊敏な動きでカエルの口をかわすことができなかった。

 あえなく、ごっくん。

 しかも、今は、カエルの口には無数の鋭い歯がついている。

 とても痛いはずである。

 うん。


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