第369話 魔の融合国(4)

 ゲロゲーロゲロ!


 目の前の一匹のカエルが、泣き声と共に大きくジャンプした。

 その気配に気づいたタカトは、咄嗟に正面に向き直す。

 上空を見上げるタカト。

 その顔に、カエルの影が落ちてくる。


 ――あかん! 俺死んだ!


 天から落ちてくるカエルの口が、大きく開いていた。

 口の中の赤色が妙に毒々しい。


 ――最後に見る風景が、カエルの口とは……


 走馬燈のように、タカトの過去がよみがえる。

 街にいるベッツをはじめとする少年たちにいじめられた思いで。

 権蔵じいちゃんに怒られる日々。

 お金が無くて、芋を掘る毎日。

 あと、記憶に残るは、作業台の道具たち。

 だが、どれも女の臭いがむせかえるような思い出なんてありもしない。

 あえてあるのは貧乳のビン子と戯れた記憶のみ。


 ――あっ、ベッドの下のムフフな本どうしよう…………


 この期に及んで、ムフフな本の事を心配した。

 すでにビン子にその存在がばれている。

 なら、いまさら隠したところでどうとなるものでない。

 諦めたタカタとは、剣を降ろす。


 ――カエルと口づけより、ムフフな本に出てくるような女の子と口づけしたかったな……


 このカエルの口の開け方は、口づけじゃなくて、丸のみですから。

 タカト君を頭からごっくんと丸のみですよ。

 目を閉じたタカトは天から降ってくるカエルに向かって、タコのように口を突き出した。

 最後のあがきで、せめて、この世との最後の想いでは、巨乳美女とのキスであったと思いたかったのであろう。

 脳内では、タカトが崖から落ちた時、助けてくれたあの金髪の巨乳女神に変換されていた。

 その女神が、天からふってきているかのように、都合よく妄想していた。

 まぁ、これで死の恐怖が和らぐなら、それでいいのではないだろうか。

 死ぬ直前ぐらい、本人の好きなようにさせてやろうではないか。

 やぶれかぶれのタカトがさらに唇を押し出した。


 ごっくん!


「ぶちゅー」ではなく、やはり、「ごっくん」だった。

 タカト君、やっぱり、食べられた。


 タカトの上半身は、生暖かいぬるぬるしたものに包まれた。


 ――安らぐぅ……


 傍から見ると、タカトの胸から上が、逆立ちしたカエルになっているのである。

 そして、その口をもごもごと動かしている。


 まぁ、不幸中の幸いと言うか、カエルには歯がなかった。

 そのため、頭をかみ砕かれることもなく、丸のみ状態だったのである。

 とはいえ、カエルの口は、どんどんとタカトの上半身を飲み込んでいく。


 その口の中のぬめぬめとした感触の中でタカトは悶えた。


 ――女の人のあそこって、こんな感じなのかしら?


 今だ見たことも、触ったこともない女性の聖域を、あれこれと妄想していた。

 もう、童貞の考えることなんて、こんなことばっかり。

 アホですか!

 いや、不潔です! 不潔!


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