第368話 魔の融合国(3)
「どうしよう……」
犬耳ビン子は後ずさり、背後のタカトにすり寄った。
「なんだ、カエル一匹じゃないか!」
カエルごときと小馬鹿にしたタカトは、側の大きな岩に近づいた。
その平らになった岩肌の上にそっとエメラルダの体を下そうとした。
だが、降ろした先から、なかなか背中を放して立ち上がろうとしない。
よほどオッパイの感触が気に入ったのか。
名残惜しそうに、背中を前後させ、エメラルダの胸のふくらみの突起物を小突いていた。
「ちょっと! タカト! 早く何とかしてよ!」
顔が引きつっているビン子は、タカトの袖を引っ張り懇願した。
この様子、魔物が怖いのではなくて、カエルが怖いのですね。
まぁ、それもそのはず、豚ぐらいの大きさですからね、このカエル。
確かにキショイ!
「カエルなんか怖がるなよ!」
おびえるビン子を見ながら、タカトは笑うと、仕方なく立ち上がった。
「安心しろ! 俺は、豚を狩った男だぞ!」
そうである。タカトは、以前、森の中で半魔の犬の親子を守るために、魔豚のダンクロールを打ち倒したのであった。
ただし、気を失ってタマタマ剣が刺さったことは、ビン子には内緒だ。
余裕をかましたタカトは、腰にさしてある小剣を正面に構えた。
ちょっとカッコイイかも! とビン子が思ったかどうかは知らない。
「開血解放!」
柄にある突起に親指を押し当て、剣を覚醒させる。
その剣は、カマキガルの鎌と小剣を融合したうえに、権蔵がダンクロールの牙を重ね融合した一品である。
名もない粗末な小剣ではあるが、第六の魔人騎士であるガメルの一撃をしのぐほどの耐久力を有していた。
――さて、カエルごとき、豚に比べればちょろいもの、まして、あの魔人騎士と比べれば、鼻くそ程度! いっちょ軽くさばいてやりますか!
タカトは剣を上段に構えた。
ゲロゲロゲーーーーーロ!
目の前のカエルが天に向かって大きく鳴いた。
ゲーーーーーロゲロゲロ!
それに呼応するかのように、声がした。
だが、その声は一つではなかった。
タカトたちを取り囲むかのように辺り一面から反響するカエルの大合唱。
モコ! モコ!
目の前の赤き地面がところどころ盛り上がる。
目の前だけではない、もう、いたるところが盛り上がり始めた。
その土が盛り上がったかと思うと、その山を突き抜け、ぴょこんとカエルの顔が飛び出した。
無数のカエルの顔だけが、地面の上にせり出して、じっとタカトたちを見つめていた。
ヒー、フー、ミー、よー……ハハハハ
タカトは乾いた笑いしか出なかった。
こんなの聞いてないよ。
その数、ざっと、50匹! いや、それ以上かも……
――ムリだって、こんな数、ぜえったいに無理だって!
タカトは半泣きになっていた。
――どうしよう……
対応策を請うために、背後にいるビン子へと静かに振り返る。
――逃げていいですか?
しかし、振り返った先にはビン子の姿はなかった。
既に影も形もなかったのだ。
――アイツ! どこ行ったねん!
ビン子は、既に、エメラルダが座っている岩陰に身をひそめ、頭を抱えて震えていたのである。
――カエル怖い! カエル怖い!
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