第370話 魔の融合国(5)

 だが、次の瞬間、カエルは、タカトを吐き出した。

 カエルの唾液でべとべとになったタカトは、地面の上に転がった。

 アホな妄想に身もだえているタカトは、フニャフニャにのびていた。

 カエルの奴、最後まで飲み込むことなく、吐き出すとは。

 よほど、食べごたえがなかったのか。

 もしかして、これは、俗にいう、中折れと言うやつですか?


 ぺっ! ぺっ!

 伸びるタカトの横でカエルが、激しく唾を吐き出していた。

 よほどまずかったのであろうか?

 いや、そんなことはないだろう。

 タカト君は、これでも一応、人間なのだ。

 童貞と言えども人間なのだ。

 変態と言えども人間なのだ。

 いくらあほな妄想をしようとも、人間であることには変わりない。

 脳には、おバカな妄想が満ちあるれているかもしれないが、人の生気は宿っているはずなのだ。

 魔物が魔人へと進化するために好んで食べる人間の生気が。

 それが、なぜ……もったいない!


 カエルが恨めしそうな緑の目でタカトをにらんだ。

 今だ口から唾を吐いている。

 何かが、カエルの口の中に残っているようだ。

 と言うことは、タカトの体についた何かか?

 もしかして、タカト君、夢精したとか……

 いやいや、まだ、カエルの口は下半身まで包み込んでいなかったはず。

 そう、タカトの童貞はすんでのところで守られたのである。

 ではなぜ?

 タカトの体には、塩がたくさんついていたのである。

 大空洞でアクセサリーを見ながら騒いでいた女たちのスカートを覗こうとしていた、あの時に、ビン子が頭からぶっかけた塩である。

 塩を手で払っただけのその髪や服には、いまだ塩がべったりとついていたのである。

 その塩を嫌って、カエルがタカトを吐き出したのだった。


 だが、カエルもあきらめない。

 目の前にごちそうの人間がいるのだ。

 ココで食べないという選択肢はない。

 他の魔物たちが集まってくる前に、さっさと食べてしまわなければならない。

 ここは魔の国。

 魔の国は力こそ正義。

 より強いものが支配する。

 当然、獲物も、強いものが来れば横取りされる。


 次の瞬間、カエルの口が大きく開いた。

 力をこめて震えるその口から、尖った歯が生えてきた。

 あるはずもない歯が、次々と生えてくる。

 というか、歯があるんだったら、最初から使えよ!

 と、タカトは軽く突っ込んだ!

 いやいや、歯があったら、あんた今頃、死んでいたからね!


 歯をむき出したカエルの口がタカトへと飛びかかる。

 いまだ、地面に倒れていたタカトは、上半身を起こすだけでやっとであった。

 ――やっぱり食われる!

 大きなトラバサミのような口が迫ってくる。


 タカトの顔の横を、一条の光がかすめとんだ。

 ――えっ?

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