第351話 続・ショッピングバトル!(1)

 小門の中では、黒ずくめの暗殺者たちが、先ほどまでみじんも感じさせなかった殺気を発しながら、周りの男達を威嚇する。

 たじろぐ小門の男たち。

 万命寺の僧たちでさえ、とっさのことにその殺気に飲まれてしまった。

 4人の暗殺者たちが、カルロスの背に隠れるエメラルダを取り囲むかのような大きな円を作っていく。


「何やつ!」

 叫ぶガンエンが、拳を構えた。

 しかし、暗殺者たちは何も答えない。

 ――こやつら、エメラルダ様を狙った刺客か……

 ガンエンの足が、じわりじわりとエメラルダへと近づいた。

 しかし、エメラルダとは遠く離れた反対側の壁の方向から悲鳴が上がった。

 一人の女が赤き血しぶきを上げながら倒れていった。

 その悲鳴を皮切りに、次々と悲鳴が沸き起こる。

 何!

 ガンエンの動きが止まる。

 ――こいつら、手あたり次第か!

 ガンエンは叫んだ。

「住人たちを守るんじゃ!」

 その指示に気を取り戻した万命寺の僧たちが、暗殺者に向かってとびかかる。

 しかし、動きが速い。

 万命寺の僧と言えども、簡単に暗殺者の動きを捕らえられなかった。

 次々と倒れていくスラムの住人達。

 ガンエンは、住人たちのもとへと走った。

 エメラルダのもとにはカルロスがいる。

 今は、目の前の殺りくを止めなければ。

 暗殺者たちは、ガンエンと言う一つの障害を取り除くことに成功した。


「やめてぇ!」

 エメラルダが叫んだ。

 ――どうして、どうしてこうなるのよ!

 エメラルダの目は涙であふれる。

 ――私のせいなの……全部、私が悪いって言うの……

 倒れ行く住人たちを助けようと、エメラルダの体が、カルロスから離れた。

「死ねぇぇ! エメラルダ!」

 それを待っていたかのように、取り囲む4人の暗殺者が一斉に襲い掛かった。


「エメラルダ様!」

 カルロスの体が、入れ替わるかのようにエメラルダの前へと飛び出した。

 ネコミミオッサンがはなつ縦一閃の一撃を、両の手を交差して受け止める。

 だが、今は生身の人間、魔装騎兵ではないのだ。

 いくら屈強なカルロスと言えども、鋭い斬撃を腕で受け止めれば、切れ落ちる。

 しかし、実際には高い金属音と共に、布切れが落ちただけだった。

 カルロスの手には金色に光る黄金弓。

 黄金弓の弓肌が、短剣の一撃を跳ね返す。

 金属と金属のぶつかる火花が一瞬、カルロスとネコミミオッサンの目を赤く染めた。

 その瞬間、カルロスの手が、ネコミミオッサンの腕を掴みとり、渾身の力をもって振り回す。

 カルロスの体がねじれるとともに、腕を掴まれたネコミミオッサンの足が水平に浮かび行く。

 ハンマー投げのように回るネコミミオッサンの肉体が、一瞬遅れて届いた残り三人の暗殺者の体を薙ぎ払う。

 4つの暗殺者の体は一つになり、大きな円の軌道を描いた。

 そして、ねじれるカルロスの体の勢いが、そのネコミミオッサンを掴む腕に伝わると、ついに、その手を投げ放す。

 岩肌を転がりゆく四つの体は、洞穴の壁にぶつかり、その勢いを止めた。

 一瞬のうちに、4人の暗殺者の攻撃を防ぎきったカルロスであったのだ。


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