第350話 ネコミミの篭絡
しかし、なぜ、顔見知りの商人がレモノワの暗殺者なのだ?
読者の方には疑問に思われている方もいるのではないだろうか。
レモノワの暗殺部隊は、いかなる場所にも出入りできるように、一般国民以下の身分で構成されている。
そう、今回のターゲットであるエメラルダが潜む小門などであっても、その内部に侵入できるようにである。
そのため、その暗殺部隊の日常は、神民街では送れない。
そう、日頃から、様々な職種で一般街で生活してるのである。
数多くいる暗殺部隊のメンバーの一人であるネコミミのオッサンから、レモノワに報告が入った。
最近、自分の店に逃げた万命寺の僧らしきものが、以前と同様に買い物に来ると。
変装をしているが、その体形から間違いない。
ネコミミのオッサンが、試しに気さくに声をかけてみると、僧たちは覚えてくれていたのかと気をよくして答えてくれた。
ネコミミのオッサンは、それとなく僧たちからエメラルダの状態や、小門の場所を聞き出そうとした。
しかし、そこは万命寺の僧たちである。固く口をつぐんで、話をそらす。
だが、その態度から、エメラルダがいることは確かなようである。
あとは、小門の場所である。
これは、オオボラから道案内を一人つけると提案があった。
場所の問題も、これでクリアーだ。
しかし、小門の中には万命寺の僧たちがいるようだ。
侵入したものの入り口付近で気づかれれば、エメラルダに逃げられる。
やはり、エメラルダのすぐ近くまで近づきたい。
ネコミミのオッサンは、万命寺の僧たちに提案した。
「塩など重いでしょう。私たちが、荷物を持ってお伺いしましょうか?」
万命寺の僧たちは困惑した。
だが、人手の買い出しで持ち帰ることができる物資の量などたかが知れている。
現に、塩や穀物など、大量に必要な物が常に枯渇しているのだ。
「ガンエンさまに、聞いてみないと……」
渡りに船であったが、やはり、心配した。
ネコミミのオッサンは、さらに追撃する。
「そのついでに、女性の方が喜ぶアクセサリーや服などもお持ちしますよ。そうすれば、あなたたちの株も上がるってものでしょう」
ネコミミのオッサンがニコニコと微笑む。
「しかし、我々には金が無くてな……」
僧たちは、恥ずかしそうに頭をかいた。
ネコミミのオッサンの目がだんだんいやらしい笑みになってきた。
「万命寺の遺品があるでしょう……」
なぜ知っているのであろうか?
僧たちは、互いに顔を見合わせた。
「なぜ知っている?」
「だって……焼け跡には何もございませんでしたから」
ココにもいたよ。火事場泥棒!
いや、ネコミミのオッサンが、実際に焼け跡に行くわけはないのである。
既に、そのような情報は、レモノワのもとに届いていたのである。
「それでいいですよ」
ネコミミのオッサンは親指と人差し指で丸を作り、にやけて振った。
だが、ココでタダでいいと言われていれば、僧たちも怪しんだのだ。
なぜ、タダなのだ? 何か魂胆があるのでは?
すぐに断り、小門の警戒を厳にしていたことであろう。
しかし、目の前のネコミミのオッサンは、いやらしく万命寺のお宝を要求してきたのである。確かに、万命寺の調度品であれば、結構いい値になるだろう。
――やはり金か……
万命寺の僧たちは、笑ってため息をついた。
しかし、それこそ、ネコミミのオッサンの篭絡だったことに気づかなかったのである。
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