第352話 続・ショッピングバトル!(2)
カルロスが、叫ぶエメラルダの手を取り、己が背に引き戻す。
「エメラルダ様……これをお使いください」
手に持つ黄金弓を、エメラルダに押し付けた。
うなずき、弓を手に取るエメラルダ。
しかし、手に持つ黄金弓は、静かであった。
以前までの黄金弓は、まるで生き物のように脈打っていた。しかし、それが今は動かない。本当にタダの黄金の弓である。
そう、この黄金弓は権蔵の手により、仮死状態に置かれたのである。
エメラルダが不老不死であった騎士の時であれば、エメラルダ自身の大量の血液を注ぐことによって大きな力が得られた。
しかし、今のエメラルダは騎士ではない。ただの罪人である。
そう、大量の血液を失えば、即、死亡。
そのため、権蔵は、今のエメラルダでも使えるように、黄金弓を仮死状態に置き、第一世代の融合加工技術によって、一滴の血で開血解放できるように加工し直していたのであった。
「開血解放!」
エメラルダは、黄金弓に親指を押し付けた。
一滴の血が黄金弓を覚醒させる。
エメラルダは黄金弓を引き絞る。
そこには一本の光の矢が、黄金弓の弦が作るくの字と共に伸びていく。
先端の矢じりがピタリとその動きを止めた。
その刹那、光の矢が瞬時に消える。
戻った弦の勢いが、エメラルダの金髪を揺らしていた。
ぐわぁ!
人ごみの中に紛れていた暗殺者の悲鳴が響いた。
今まさに、その暗殺者のナイフが、目の前のスラムの女の膨らむ胸に突き立てられようとしていた時の事だった。
だが、暗殺者のナイフは、女の前から突如、姿を消した。
いや、消えたというより、真横に流れていったのだ。
暗殺者の首に突き刺さった光の矢の勢いが、暗殺者の体ごとナイフを弾き飛ばした。
おそらく、矢が脊髄を直撃したのであろう、首があらぬ角度で曲がって飛んでいく。
すでに、エメラルダは、第二射を構えていた。
ネコミミオッサンは音もなく起き上がると、軽く二本指を立て、ささっと左右に振った。
オッサンの周りにいた3人の暗殺者たちが、ネコミミオッサンから離れる。
カルロスの一撃を警戒して、距離を取ったのか。
いや、違う。暗殺者たちは、スラムの住人の中に紛れていったのだ。
ネコミミオッサンの口元がいやらしく微笑む。
細くつぶれた目が、まるでパーティが始まるかのように、嬉しそうに笑っている。
その瞬間、スラムの住人たちの中から、次々と悲鳴が起こっていく。
三人の暗殺者たちが、スラムの住人たちを手あたりしだいに切り殺し始めたのだ。
いや、3人だけではない。残りの十数人の暗殺者たちも、エメラルダをそっちのけでスラムの住人たちを切り殺し始めた。
万命寺の僧たちが懸命に止めようとするが、暗殺者たちの動きを捕らえられない。
先ほどまでは、僧たちをエメラルダから遠ざけるために、あえて僧たちの前で住人たちを殺し、足止めをしていた。
しかし、今度は違う。
僧たちから逃げるように、住人たちの間をすり抜けていく。
その素早い動きが去った後、残る左右の住人たちから血しぶきが舞いあがる。
騒然とする人ごみの中、僧たちは暗殺者の姿を見失う。
悲鳴が上がるたびに、その方向に体を向けてはみるものの、そこには奴らの姿はすでにない。
歯ぎしりする僧たちの顔からは、焦りだけが滲み出していた。
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