第347話 ショッピングバトル!(3)
「まぁ、危ないからのぉ」
洞穴の奥から歩いてきたガンエンが、女たちに声をかけた。
タカトの屍を見つめていた女たちは、お互いに顔を見合わせて、商人隊たちから少し距離を取った。
女たちの間を小太りのネコミミオッサンが、通っていく。
あっちを見たりこっちを見たり。
ニコニコと愛想を振りまき、手をこねる。
これが可愛い女の子であれば、マジで萌えるのだが、いかんせ目の前にいるのは中年のオッサン。
萌えどころか、怒りが燃える。
小太りのネコミミオッサンに続き商人隊が、女たちの間を通り、大空洞の真ん中に荷物を降ろし始めた。
洞穴の岩肌に色とりどりのじゅうたんが10枚ほど敷かれた。
それぞれの絨毯ごとに、アクセサリーや、服など様々商品が並べられていく。
それを遠巻きに見つめている女たちは、もうソワソワが止まらない。
商品が絨毯の上に置かれるたびに、あれは私が買うの! などと騒いでいる始末。
一方、意識が戻ったタカト君であったが、すでに、周りの者たちなど、もうそんなタカトのことなど全く気にしていなかった。
それを上目遣いに確認したタカトは、芋虫のように、地面の上を這えずった。
向かう先は、商品に目を奪われている女たち。
その女たちの足元から天を見上げてみれば、そこには異世界のパラダイスが待っている。
にやけたタカトの口から、よだれがナメクジの後を追うように地面に白い跡を残して行った。
――あと少し……
タカトの目がピンクに染まる。
しかし、その目の前の景色が、一瞬に真っ白になったかと思うと、ブラックアウトした。
「いてぇっぇぇぇぇ!」
目を押さえて飛び上がるタカト。
そして、続けて叫ぶ。
「しょっぺぇぇえっぇえ!」
タカトの頭の上には大量の塩がまかれていた。
「ごめん! ごめん! こぼしちゃった!」
ビン子が、そっけなく謝った。
ビン子は、小門内の生活で不足する塩のつまった袋を、商人たちの荷馬車から運んでいたのであった。
その塩を、ついうっかり手が滑り、タカトの上に落としてしまったのらしいとのこと。
いや、違う。
こいつワザとばらまいたのだ。
だって、ビン子の手には、さかさまに口を広げた塩の袋が空になってぶら下がっていたのである。それもご丁寧に、袋の中に残ったカスまでも出そうと、更に上下に振っているではないか。
タカトは、痛みに耐えかねて、飛び上がり、洞穴の中を走り回っていた。
しかし、ちょっと……ちょっと……ビン子さん。小門の生活では塩は貴重なんですよ。
そのためか、そんなタカトを無視して、ビン子は地面にばらまかれた塩を丁寧に手で集め始めた。
まぁ、確かに、ふるいにかけゴミを取り、水に溶かして煮だせば、また塩として使えるし……
一方、塩をかぶったタカト君は、急いで地下からしみ出す洞穴の川で、顔を洗っていた。
「くそっ! ビン子の奴め! 絶対に許さん!」
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