第348話 ショッピングバトル!(4)
一方、スラムの男たちは、荷車に積まれた塩などの物資を奥の洞窟へと黙々と運んでいた。
それに対して、女たちは、思い思いの絨毯の前で、おかれた商品を手に取り、体に当てて嬉しそうに笑っている。
万命寺は男女平等ではなかったのか?
どう考えても、女尊男卑のユートピア。
「あら、楽しそうね。私も覗いてみようかしら」
嬉しそうに笑う女たちの背後から、エメラルダが姿を現した。
一応、外部からくる商人隊を警戒して、ガンエンはエメラルダを側洞の奥へと隠していた。
しかし、女たちの楽しそうな笑い声が暗い洞窟の奥に身をひそめるエメラルダの耳にも届いた。
高らかな笑い声。そんなに危険はないと判断したエメラルダは、その側洞の奥から顔を出す。
目の前には、色とりどりの絨毯の前で楽しそうにおしゃべりをする女たちの姿あった。
こんなに楽しそうな光景はいつ以来の事だろうか。
エメラルダは、ガンエンの言いつけを忘れ、そっと女たちの後ろへと忍んでいった。
しかし、そんなエメラルダの姿を見つけたネコミミオッサンの目が鋭く光ったことに、誰一人として気づいていなかったのだ。
ひととおり荷運びの仕事を終えたビン子とコウエンが一緒にアクセサリーを覗いていた。
「これ、ビン子ちゃんに似合うんじゃない?」
コウエンは一つの指輪を手に持って、ビン子に差し出した。
それは、何も飾り気のないただの指輪。
だけども、白く銀色に光り輝くその金属は、そのシンプルな装いとは別に、高価な雰囲気をまとっていた。
「えっ……でも、それ高そうだし、いいよ」
ビン子は咄嗟に手を振った。
「私も、似合うと思うなぁ」
ビン子の肩越しにエメラルダが顔を突き出して、微笑んだ。
えっ!?
ビン子は咄嗟に驚いた。
側洞の奥にいるはずのエメラルダが、自分の右ほほの横に顔を突き出し笑っていたのである。
「なんで! ここにいるのよ!」
ビン子は怒鳴った。
「だって、楽しそうだったから……」
エメラルダが、少し寂しそうにつぶやいた。
しかし、そのエメラルダの後ろでカルロスが咳払いをする。
まぁ、カルロスがエメラルダの背後で目を光らせているのであれば、よほどのことが無い限り大丈夫だろう。
ビン子は、目の前の指輪に目を戻した。
しかし、そこにはあるはずの指輪が見当たらない。
きょろきょろとあたりを見まわすビン子。
その横で、タカトがその指輪を手につまみながらニヤケていた。
「そうか……そうか……ビン子ちゃんは、この指輪が欲しいのか……」
ビン子がタカトをにらむ。
「それは私の!」
そして、タカトに向かって手を伸ばす。
しかし、タカトはあからさまにその指輪を、ビン子から遠ざけた。
意地悪そうな笑みを浮かべながら、ビン子の手から体をそらす。
負けじと手を伸ばし指輪を取ろうとするビン子の額を、手で押さえ、指輪に届かぬように制止する。
――ふっ!
タカトは自分の勝利を確信した。
――はははは! ビン子の奴、こんな指輪ごときに必死になりおって!
慌てふためくビン子の表情を見ながら、悦に入っていた。
――先ほどの恨み! この指輪、絶対にビン子に渡してなるものか!
なんだか小さい。器が小さい。こんなことでビン子に仕返ししたと思っているのだろうか。
そんなビン子の横で、アクセサリーに目を落すエメラルダとコウエン。
もう、バカな二人のじゃれあいには慣れている様子で、全く相手にしていない。
「フン! もういいわよ! バカタカト!」
ビン子は涙目になりながら、指輪をあきらめると、ぷいっと横を向いた。
「わっはははははははは!」
タカトは、手に持つ指輪を高らかに天に掲げ、自らの勝利を祝い髙笑いを発していた。
頭に来たビン子は、そんなタカトを完全に無視。
もう空気のように気にしない。
ついには、横のエメラルダ達と会話を始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます