第332話
――お母さん……
気を失っていたアルテラは、暗闇の中で何か懐かしい匂いを覚えた。
誰かに優しく頭を撫でてくれる心地よい感覚。
――何だか温かい……
アルテラはふわふわとした安らぎの中にいた。
力なくうっすらと目を開ける。
ぼやける視界。
アルテラを覗き込む一つの影がうっすらと浮かぶ。
誰……?
徐々にアルテラの視界が色を帯びてきた。
覗き込む女の影が、はっきりと映った。
その瞬間、アルテラが怒鳴った。
「何するの! この淫売婦! 触らないで!」
ネルの膝枕から、アルテラの頭が跳ね起きると、優しくなでるネルの手を払いのけた。
振り向くアルテラの目が、侮蔑する目でネルをにらみつけた。
さきほどまで、まるで我が子をいとおしむかのような慈愛に満ちあふれていたネルの目が、みるみるうちに悲しみに覆われていった。
ネルの手が、小刻みに震えながら寂しそうに、立ち上がるアルテラを追う。
だが、その指先は、途中で、動きを止め、何かの決意を再度確認するかのように、強く強く握りしめられた。
ネルの目がいつもの厳しい目に変わっていた。
「アルテラ様! このようなところで何をされているのですか!」
「あんたには、関係ないわよ!」
「まして、このような危ない目に! あなた様のお体に何かあれば、お父様であるアルダイン様が悲しまれます」
「お父様の名前を出さないで! あなたに言われると、お父様の名前がけがれる!」
「申し訳ございません……」
「ところで、タカトたちはどこ!」
「あちらで休ませております……」
「案内しなさい!」
「御意……」
タカトとビン子、そして、コウスケは椅子に座っていた。
しかし、ミズイの姿が見えない。
ミズイは、タカトの生気をある程度分けてもらい、生気の消費を回復した。
しかし、大きいオッパイが好みと言うタカトの言葉に惑わされ、幼女に戻ることはしなかった。美魔女の熟女の姿で、張りのある胸を揺らしながら闇の中へと、姿を消していった。その姿を見送るビン子が、忌々しそうにアッカンベーをしていたのは、ココだけの秘密である。
壁に打ち付けられ、気を失っていたカルロスとピンクのオッサンは、ネルの命令により、守備兵から手当てを受けていた。
ソフィアがいなくなったことにより、人魔収容所を包んでいたマリアナの神の恩恵の誘惑の効果が消えた。
我に戻った守備兵たちは、当初、混乱した。
一体自分たちは、今まで何をしていたのであろうかと。
しかし、ネルが、傷つく腹を押さえながら、てきぱきと指示を出す。
人魔収容所内は、すぐさまネルのもと落ち着きを取り戻していった。
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