第331話

「どこに……行ったんだ……」

 何もない暗い空間を見つめるタカトは、やっとのことで声を絞り出した。

 先ほどまで、そこにいた、ソフィアとティアラの姿が消え去った。

 どこかに隠れたわけではない。

 姿が、パッと消えたのだ。


 ミズイがゆっくりと歩み寄ってきた。

 床に転がった時にぶつけたのであろうか、肩を押さえて、足を引きずる。

「あの女、時の女神は……おそらく、時を跳んだんじゃ……」

 声が震えている。

「時を……」

 タカトはミズイへと振り返る。

「あぁ、過去か未来か分からぬが、ココとは違う時間へと跳んだ。ソフィアを連れて飛びおった」

 うつむく顔から発せられる、その声は、弱々しく、よく聞き取ることができないでいた。

「そんな神の恩恵があるのか!」

 タカトは驚きの声を上げた。

「あるにはあるが、そんな大きな神の恩恵、使ったら一発で荒神化してしまうわ!」

 咄嗟にタカトをにらみつけたミズイの目には、涙が浮かんでいた。

 そんなミズイの様子に驚いたタカトは、トーンを落とした。

 凄く気まずい……

「そんなに生気の消費が凄いのか……」

「凄いなんてもんじゃない、まさに命を削るほどのな……」

 その言葉に、声を詰まらせるタカト。

「じゃぁ、ティアラは今頃……」

「ああ、おそらく、荒神化しているだろうな……」

 ティアラは、己が命をかけて自分を守ってくれたという事なのか。

「なんでだよ! 俺が何とかしてやるって約束したじゃないか……」

 だいたい、荒神化を何とかしてやるって約束したところじゃないか。

 それが、なんで、荒神化を覚悟して、神の恩恵なんか使うんだよ!

 一体なぜなんだよ……

 理由が分からぬタカトの目に悔し涙がにじむ。

「その約束を守りたかったんじゃろ……」

 意味が分からない。

 全く持って意味が分からない。

 俺はアホだから分からない。

 いや、分かりたくもないわ!

「でも、もう約束守れないじゃないか……」

「いや、まだ、可能性はあるぞ……」

 そのミズイの言葉に、とっさにタカトは顔を上げた。

「どういうことだよ!」

「ティアラが、もし、未来に飛んでいるとすれば、この先、アイツに会うことができるかもしれない。さすれば、その時、荒神化を解除してやればいい。だから、それまでに、何とかできる方法を探すのじゃ」

「と言っても……」

 タカトは握りしめた両手を見つめた。

 俺に何ができるって言うんだよ……

 ――母さん……


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