第327話
そんな二人の様子を、荒神になりかけているティアラが切ない様子で見つめていた。
――どうして……イブばかり……
タカトから生気を吸収したためか、赤き光が少し収まった瞳が、悲しそうに涙で潤んでいた。
――やっとタカトに会えたのに……
そんな二人の関係は、ティアラには分かっていたことだった。
タカトとビン子には切っても切れないつながりがあることは、知っている。
だけど、自分も、自分だって、ずっと待っていたのだ。
タカトのために、自らの身を犠牲にしたのは、ビン子だけではないのだ。
――私だって、あの時……
約10年ほど前、ティアラは、大きな神の恩恵を使用した。
その神の恩恵の発動により大量の生気を消耗したティアラは、当然、荒神化し始めた。
だけど、聖人国に存在する荒神の気を払う神祓いをしてもらえれば、そう、神払の舞で荒神の気を払ってもらえれば、私は、また、生きかえることができる。
――それまで、何とか耐え抜くの!
ふらふらと足元がおぼつかないティアラは、森の中をさまよった。
荒神化から来る、意識の混濁。
激しい破壊衝動は、目に見えるもの全てを憎しみに変える。
自分とは違う、なにか別の赤黒い意識に侵食される感覚。
気を抜くと自分と言う意識が、あっという間に消えてしまいそうな気がする。
だけど、あの神祓いの舞を見るまでは……
ティアラは歯を食いしばる。
なくなりそうになる意識を、必死に現世につなぎとめていた。
一分一秒が、なんと長い時間なのか。
しかし、そんな時である。
ケテレツに見つかったのは。
神と人間の融合実験を考えていたケテレツは、魔人国ヨメルの実験報告を入手していた。そこには、荒神と魔人の融合実験が記されていた。
神には絶対防壁である神の盾がある以上、融合などできはしない。
しかし、荒神ならどうだ。
荒神、荒神爆発を起こす前段階。神の盾など、発動しないのである。
ヨメルはそれを使って、荒神と魔物の融合実験に成功したに違いない。
ならば、俺だってできるはず。
ケテレツはそう考えていた。その矢先、目の前にふらつく荒神が現れたではないか。これこそ天の思し召し。しかも、この荒神は、まだ、意識を保っている。これは、この荒神に強制的に人魔からとった生気を流し込めば、うまくコントロールできるかもしれない。そうすれば荒神爆発も避けることも可能だろう。こんないい実験体に出会えるとは、俺は、幸せ者だ!
それからである。ティアラがこの人魔収容所の地下実験施設で、3000号と融合、いや、単に3000号の肉塊に巻き付けられて、その血をソフィアにささげ続けさせられていたのは。
だがティアラは耐えた。
耐え続けた。
きっといつか、神払の舞を見ることができる。
きっといつか、タカトと出会うことができる。
きっと、タカトが神払の舞で私を救ってくれる。
その希望を胸にいだき、必死に耐えつづけたのだった。
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