第326話
ミズイの持つ剣が振り下ろされた瞬間、タカトがハンマーをゴルフのスイングのように、下から上へと打ち上げたのであった。
白刃の薄い一線に、ハンマーの中心を見事に叩きつけ、体のバネを使って振りぬいた。
タカトの体の回転が、ミズイの剣を跳ね飛ばす。
クルクルと回転し宙を舞いもどってきたソフィアの剣が、ミズイの側に突き刺さり、その刀身を小刻みに揺らした。
ミズイは、膝まづく。
そして、目の前のソフィア、いや、今はマリアナを抱きしめた。
「マリアナ……」
「義姉さん……」
二人の目から、涙がこぼれ落ちていた。
その横で、ハンマーを振りながら、先ほどの会心の一撃を再現しているタカト君。ウザい! とてもウザいぞ!
なんか、俺をほめてって言わんばかりに、とてもウザい!
せっかく格好よかったのに……全て、台無し……
「お帰り……マリアナ……」
ミズイは、マリアナの額に自分の額をこすりつけながら笑った。
だが、その声は涙と鼻声で、もうすでに何を言っているのか判然としない。
マリアナもまた、何か言っているようであるが、もう全くもって意味不明である。
タカトは、その様子を見ると、シュンとして、ハンマーを止めた。
そして、しょぼんとしながらビン子のもとへと戻っていった。
きっと、凄い! とか、ありがとう! とか、ミズイから感謝され、その、大人の豊満な胸を押し付けられるものと期待していたのかもしれない。
その証拠に、しょぼしょぼと歩くタカトの口から、ぼやきがこぼれた。
「俺のおっぱいが……せっかく、大きなおっぱい揉めると思ったのに……」
「……バカ……」
タカトの足元から声が、ゆっくりと打ち上げられた。
その声は、ビン子のものであった。
いまだ、床に体を伏せてはいるが、何とか意識を取り戻したようである。
ビン子は見ていた。
タカトが、とっさにハンマーを振って、振り下ろされたミズイの剣を弾き飛ばしたところを。
ビン子が見ていたと言うことは、ビン子の生気の吸収が戻ったという事。
ならば、その時点のタカト君は、生気の量が常人以下の弱いタカト君になっていたのだろう。
えっ……もしかして、あの剣を弾き飛ばした所業は、全く戦えないひ弱なタカト君の所業ということなのか。ヤレバできる子なんだ。
「タカト、凄いじゃない……」
「見てたのか……」
今だに力が入らないビン子をタカトがゆっくりと抱き起した。
「大丈夫か?」
「うん、ちょっと、まだふらつくけど大丈夫」
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