第322話
「行かせるか! 小僧!」
ソフィアが、見下すように微笑むと、背中の羽を大きく広げた。
まさか、カルロスとピンクのオッサンを吹き飛ばした大風か。
その風が、タカトを襲うのであろうか。
ミズイは、剣へと走るタカトをちらりと伺う。
強靭な肉体を持つカルロス達でさえ、口から泡を吹いて倒れている始末。
ならば、貧弱なタカトがその突風を受ければ、壁に打ち付けられた途端に骨まで砕けることは間違いないだろう。そう、即死である。
ミズイは、とっさにタカトとソフィアの間に分け入った。
そして、ソフィアに向けて両手を突き出した。
――ここで、私がタカトを守ってみせる!
突風が来ようが、神の盾で防ぎきる。
しかし、今のミズイの生気では、あと何度、攻撃をしのぐことができるであろうか。
最悪、荒神になることもありうるだろう。
ならば、守るのではなく、攻撃!
全生気を用いた神の恩恵でソフィアを葬る方がいいのではないだろうか。
だけど、目の前にいるのはソフィアであって、マリアナでもある。
自らの手で、愛しき義妹を葬ることなどできはしない。
迷うミズイの手が小刻みに震えていた。
――どうすれば……
「死ねぇ!」
ソフィアの肩羽が大きくうねると、突風がミズイとタカトを襲う。
ミズイの体が金色に光るとともに、球場の光が体を包む。
その壁に従い、突風が四方八方に裂けていく。
大風が氾濫した川の流れのように部屋の中のあらゆるものを巻き込みながら渦を巻く。
このままでは……
ミズイは歯を食いしばる。
カコン!
ミズイの後方で何か乾いた音がした。
――えっ!? 何?
神の盾を展開し続けるミズイはなんとなく感じたいやな予感を確かめるため恐る恐る振り返った。
ミズイの後ろには、白目をむいたタカトが倒れていた。
――なぜ?
全く意味が分からぬミズイ。
――何がおこったの?
ミズイは、必死にこの変な状況を確認しようとした。
白目をむくタカトのおでこに、大きなたんこぶ。
どうやら、突風で舞い上がった金属のハンマーが、剣を取ろうとしていたタカトの額を殴打したようである。
神の盾も、後方を走るタカトまでを覆い尽くすことはできていなかったようだ。
ミズイの前方から吹きつけられ、神の盾によって上空に跳ね上がったハンマーが、くるくると回転しながらそのまま自然落下。偶然、その下をひた走るタカトにヒットしたようである。
――こんな時に……
ミズイは言葉を詰まらせた。
しかし、もうあと戦闘で使えそうな人員といえば、荒神化しかけている女神ティアラ(使えないコウスケ君)のみである。
神の盾を解いた瞬間に、ミズイもタカトも吹き飛ばされる。
――万事休すか……
「マリアナァァァァァァァァ!」
ミズイは一縷の希望をかけて、必死に叫んだ。
しかし、目の前のソフィアは、いやらしく微笑むのみであった。
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