第321話

 タカトの横でひざまずくミズイは、迫りくる緑の目をしたソフィアをにらみつける。

 やっと、アリューシャとマリアナを見つけたというのに、どうすることもできないというのであろうか。

 末の義妹のアリューシャはスライムになり果てていた。

 真ん中の義妹のマリアナは、魔人ソフィアと融合されている。

 二人の妹の魂など、この世にはもう存在しないというのであろうか。

 ――そんなことはない!

 ミズイは唇を強く噛みしめた。

 ――マリアナは必ずいる! 必ずそこにいる!

 立ち上がったミズイは叫んだ。

「マリアナ! 戻ってきて!」

 涙で潤んだミズイの目から、涙が次々と押し出され、光を散らして落ちていく。

「そこにいるんでしょ! マリアナ! 返事をして!」


「私の半身は荒神ぞ! 意識など残っている訳があるまいが!」


「もうやめて!」

 ビン子がミズイの前に飛び出した。

 そして大きく手を広げる。

 涙をこぼしながら、ソフィアの進行を妨げた。

 マリアナの名前を叫ぶミズイを見たビン子は、目の前のソフィアの一部がそのマリアナと言う女神であると直感したのだ。

「マリアナさん! もうやめて!」

 ビン子が、もう一度叫ぶ。

 顔を手で押さえるソフィア。

 手で押さえた顔をうつ向かせ、ゆっくりとビン子の前へと進んできた。

 ビン子の前で、顔をあげるソフィア。

 顔を覆った手の指の間から、緑色目が光っていた。

 その目は、実に楽しそうである。

「どいつもこいつも、マリアナ! マリアナと馬鹿の一つ覚えみたいに!」

 その言葉が言い終わるか、言い終わらないかの瞬間、ビン子の口から胃液が飛び出した。

 ソフィアの拳が、ビン子の腹を打ち付けていた。

 ははっはははは

 高笑いをするソフィアの体から、まるで打ち出されたかのようなビン子の体が、放物線を描いた。

 床に激しく叩きつけられるビン子の体。

「ビン子ぉぉぉぉぉ!」

 タカトはとっさのことに対応できなかった。

 ミズイとの口づけにのぼせていたと言われればそうであるが、まさか、ビン子が、ソフィアの前に飛び出すなんて考えてもいなかったのである。

 ビン子のもとに駆け寄るタカト。

 しかし、ビン子は動かない。

 胸に耳をつけるタカト。

 トクン……トクン……トクン……

 大丈夫。

 それを確認したタカトは勢いよく立ち上がる。

「このくそババアぁが! よくもビン子をどついてくれたな!」

 タカトが柄にもなく怒っている。

 タカトは、使える物がないか辺りを見回した。

 そこには、先ほど3000号を貫くために捨てたソフィアの剣が転がっていた。

 咄嗟に、走るタカト。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る