第320話

 ――マリアナたちと三人で暮らしていたころが懐かしい。あの頃に戻りたい。

 何度もそんな思いが、ミズイの頭をかすめていった。

 でも、二人は一向に見つからない。

 そして、だれも助けてはくれない。

 無駄に時が流れ、二人が見つからないままミズイの生気は枯渇していく。

 ――早く見つけなければ……

 気だけが焦っていた。

 誰とも接することが無い生活。

 誰とも話すことが無い日常。

 誰とも笑いあうことが無い毎日。

 今のミズイにとってマリアナとアリューシャ達との思い出だけ支えであった。

 そんな時である、小門の中のアリューシャの荒神爆発の痕跡を見つけたのは。

 ――アリューシャはもう、いない。もしかしたら、マリアナも……だから、私の鑑定の力でも見つからなかったのかも……

 今までミズイを支えていた、二人の存在が姿を消した。

 ミズイを奮い立たせ歩かせていた、気力も消え去った。

 ただ、今のミズイには、一人ぼっちになった寂しさだけが付きまとっていたのである。

 ――寂しい……寂しい……寂しい……

 街で血を吐き、倒れた時、ミズイは一瞬、これで楽になれると思った。

 ――寂しい……寂しい……寂しい……

 荒神爆発を引き起こし、この町や世界がどうなろうが、もう、そんなことはどうでもよかった。いや、そんな事すら考える余裕はなかったのだ。

 ――寂しい……寂しい……寂しい……

 二人がいないこの世界から、やっと解放される。

 ―― 一人ぼっちは……イヤ……


 だけど、あのタカトと言う少年が、自分に命の石を握らせてくれたのだ。

 何も聞かずに、すぐさま握らせてくれた。

 何の見返りも求めず、石をくれたのだ。

 命の石を握りしめるミズイの手。

 ――あたたかい……


 聖人世界では、命の石は高価な物と聞く。

 それを何も言わずに、あのタカトはミズイに握らせてくれたのだ。


 誰もいない森の中で、ボロボロになった石のかけらを握った老婆のか細い泣き声がひときわ大きく響き渡っていた。

 生気の抜けた石を両の手で握りしめ、老婆は泣き続けていていた。

 森の中で、一人、声を上げ、泣いていたのである。

 深い深い森の中、その鳴き声だけが静かに響く。


 もう一度、あのタカトと呼ばれる少年に会ってみたい。

 もしかしたら、アリューシャも何とかできるかもしれない。

 会いたい……会いたい……会いたい……会いたい……

 もう、一人は嫌……

 会いたい……



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