第314話

「クソどもが! もう少しで、記憶が戻ろうかと言うのに邪魔しおって!」

 ソフィアが、二振りの剣を自らの前に投げ捨てる。

 そして、自らの頭上に拳を高く突き上げた。

 次の瞬間、その拳は、勢いよくまっすぐ真下に突き落とされて、3000号の体を貫いていた。

 その醜き塊から噴き出す血しぶきがソフィアの体を染め上げる。

 体内でもがくように先ほどまで動いていたケテレツらしきものも、動かなくなっていた。

 ちょうど拳が頭のあたり。おそらく、ケテレツの頭は……貫かれたのだろう。

 ゆっくりと引き戻されるソフィアの拳。

 3000号の体から抜け出た、その手には、ピクピクと動く紫色の大きな塊がつかみ取られていた。

 そう、それは3000号の心臓。

 今だちぎれた血管から、規則正しく紫の血液を噴き出している。

 躊躇なくソフィアが、その心臓にかぶりついた。

 そして、無心に食らい尽くしていく。

 その様子を唖然と見つめる、ネルたち。

 一体何がおこったのか分からなかったのである。

 まさに、異様な光景だったのだ。


 我に返ったカルロスが、踏み込んだ。

「この化け物ガぁ!」

 そして、渾身の力を込めた拳を突き出した。

 右拳は、ソフィアの顔面を捕らえた。

 しかし、ソフィアは微動だにしない。

 その場から、ピクリとも動かないのだ。

 ソフィアの顔面を捕らえたはずのカルロスの右拳が、さらに力を込める。

 しかし、いっこうに動かない。

 それどころか、拳の先から魔装装甲にひびが走り出す。

「何!」

 カルロスは咄嗟に腕を引いた。

 右腕の魔装装甲が、破片を飛び散らしながら戻ってくると、既に、人の肌をむき出しにしていたのだ。

 だが、驚くべきは、カルロスの魔装装甲ではない。

 ソフィアの顔の前に、金色の六角板が浮いているのだ。

 そう、それは、神の盾。だが、ソフィア全体を覆っているわけではない。

 車のタイヤほどの六角板がソフィアの周りに一つ浮いているのである。

 そして、何よりも目を引くのが、ソフィアの目であった。

 暗い部屋の中で浮かび上がるかのようにはっきりと輝く緑の光。

 そう、ソフィアの右目が魔物同様、緑の光を放っているのである。

 そして、残された左目はいつも通り赤き瞳のままである。

 だが、心なしか、赤みがすこし弱くなっているような気もしないでもない。


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