第313話

 暗い部屋の中を、火花が走る。

 一刀一刀に力を込めたネルの斬撃を、ソフィアが受ける。

 ミズイが言った時間をしのぎ切るために、残る体力を振り絞る。

 既に、ネルの剣筋は、ソフィアの急所を捕らえていない。

 ただ、力任せに振り切るのみ。

 いや、それさえも、もう限界に近付きつつあった。

 くそっ!

 ネルは、重くなった腕を必死で振った。

 剣を握る手の感覚が鈍くなる。

 まるで、時間がゆっくりと流れるかのように、たかが2分が長く感じられていた。

 カンっ!

 軽い金属音と共に、ネルの剣が宙にクルクルと円を描いた。

 ソフィアによって弾き飛ばされた長剣が、銀色の円盤の如く、地面に落ちていく。

 いつの間にか、ネルの首筋に残されたソフィアの剣先が突きつけられていた。

「勝負あったな! 年増は年増らしく部屋で腐っていろ!」

 ソフィアが剣先に力を込めた。

 魔装装甲にひびがいく。

 動けぬネル。

 後方に飛んで逃げても、剣が追う。

 喉先の剣を手で払っても、白刃が降ってくる。

 それよりも、もう体が動かない……

 ネルは、魔装装甲の隙間から、ソフィアの勝ち誇った目をにらみつけた。

 アルテラさえ無事なら……

 だれかアルテラを連れて逃げて……


「あきらめるのは早いぞ!」

 力いっぱいにネルの体が後方に引かれた。

 咄嗟にその体を追うソフィアの剣。

 しかし、その剣の腹を太い拳が跳ね飛ばす。

「ラブラブパーンチ!」

 ピンクのオッサンが、右拳がすかさず戻る。

 その後ろには、ネルの首根っこを掴んで引きずり倒した、黒きカメの魔装騎兵が立っていた。


「お前たち! 正気に戻ったのか!」

 カルロスを見上げたネルが叫んだ。

「記憶がなくてな……すまん!」

 カルロスが頭を掻いた。


「こざかしい!!」

 ソフィアが、激しく怒鳴り、二双の剣を構えた。


 ビッー!ビッー!ビッー!ビッー!

 ネルの魔血ユニットから警報音が鳴り響く。

 それに合わせるかのように、ソフィアの魔血ユニットもけたたましくなり出した。

「魔血切れか……」

 ネルは、魔装装甲を解いた。

 というのも、予備の魔血タンクは、カルロスに渡してしまい、もう手元に残っていないのである。そもそも、ココは、融合国の人魔収容所である。ネル自身もこんな戦いに巻き込まれるなどとは思っていなかったのだ。

 ソフィアもまた、警報音が鳴る魔装装甲を解いた。

 だが、ソフィア自身、魔人と荒神の融合体である。人魔症などかかるとは思えない。ならば、なぜ、魔装装甲を解いたのだろうか。

 ソフィアは、ネルたち三人を忌々しそうに睨み付けながら、遠巻きに歩く。

 ゆっくりと歩を進めたソフィアは、動かなくなった3000号の元まで近づいた。

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