第310話

「こいつをなんとすれば、あの男たちを何とかできるのだな……」

 ミズイの横で女の声がした。

 そこには、長剣を引きずる魔装騎兵。そう、ネルの姿があった。

 あのカルロスとピンクのオッサンの二人をあのままにしておけば、確実にネルは負ける。

 ネル一人では、残念ながら赤の魔装騎兵となったソフィアにかなわない。

 ならば、あの二人が元に戻れば、また、3人がかりで闘えるかもしれない。

 現状、あの女を黙らせるには、それしか方法はあるまい。

 ネルは体力が限界に差し迫った体に鞭をうち、内なる心に決意する。

「どれぐらいかかる……」

 両手を突き出し、神の盾を展開するミズイは、ネルを見ることもなく、ソフィアをまっすぐに見つめ続けている。

 ミズイは自分が持つ神の恩恵「未来鑑定」を使おうと考えていた。

 ソフィアと融合している神はマリアナである。マリアナはミズイの義理の妹。力関係で言えば、格下である。ならば、ミズイの未来鑑定により、マリアナの誘惑を上書きすることも可能なのであろう。だがしかし、それを行うためには、この絶対防壁である神の盾を解かなければならない。そうすれば、ミズイの身を守る物は何もなくなる。ソフィアの二つの剣で切り刻まれたミズイは、あっという間に生気を失い。荒神化してしまう事だろう。それは、避けたい。だが、神の盾は外せない。そんな時であった。ネルが横から声をかけたのは。

「ざっと、2分っと言ったところかの……」

 ――その間ぐらいなら、このソフィアを押さえることができる……

 ネルは長剣を正面に構え、ソフィアをにらむ。


 ネルとソフィアの体が激しくぶつかる。

 剣が交わるとともに暗い部屋の中に再び火花が飛び散りった。

 それを合図にするかのように、ミズイは手を降ろすと、光の壁が闇の中に溶け消えた。

「タカト! 分かっているだろうな! 後でキスだぞ!」

 ミズイは、体を反らせ、両の手を広げ、天を仰いだ。

「何言ってるのよ!」

 なぜかタカトではなく、ビン子が怒鳴り返した。

 一方タカトは、キョトンとしている。

 若干、大人びてきたミズイ。先ほどまでのロリロリ幼女ならいざ知らず。年のころは18ほどになったミズイの胸は、はち切れんばかり。こんな美少女からキスをねだられるとは。これはイイ! ありだ! ありだ!

 タカトは、大きく何度もうなずいた。

 それを見たビン子の怒りはさらに高まったのは言うまでもない。

 しかし、ミズイは、それどころではない。二人を見ることもなく、しずかに浮かび上がっていく。

「うるさい! 神の恩恵を使えば生気が枯渇する。それをタカトからもらうんじゃ!」

「そんなことしたら、タカトが死んじゃうじゃない!」

「そんなことでは、タカトは死なん! 知らんのか!」

 そう、言い終わると、ミズイの体が金色に光り出した。

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