第309話

 ティアラの顔を押し上げようとしていたタカトの手が止まる。

 顔が動かせぬタカトの目だけが、ミズイを見つめた。

 それに代わるかのように、ビン子が叫ぶ。

「どういう事よ! 荒神化が治るって言うの!」

 顔すら動かす余力がないのか、ミズイが振り返りもせずに大声を出す。

「その状態では、もう戻らん。神祓いの儀式を行わぬ限りな……」

「その神祓いの儀式は、どこにあるのよ……」

「そんなことは、そこのタカトに聞け!」

 どういう事?

 ビン子は、いまだ、倒れ込み、口づけをかわしているタカトとティアラを見た。

 目が合うタカトは首を振る。

 俺は、全く分かりません!

 それを懸命に伝えようとしている様子である。


「忌々しい小僧め! 道具の作り方を教えぬばかりか、私の記憶までも奪うつもりか!」

 ミズイの神の盾を切りつけながらソフィアが怒鳴る。

「お前たち、そこの年増より、あの小僧を始末しろ!」

 誘惑にかかったカルロスとピンクのオッサンの足がピタリと止まった。

 ネルが、長剣を床に突き刺し、膝をつく。

 手練れの二人を相手に、よくぞしのいでいたものだ。

 いや、しのぐだけで精いっぱいだったのである。

 この二人から繰り出される隙の無い連撃を、ひたすらかわし続けていた。

 ネルの肩が大きく揺れる。

 体力的にも限界だったのだろうか。

 限界まで開かれた口から、唾と共に荒い息が行き来する。


 ソフィアの声に従うかのように、カルロスとピンクのオッサンが、タカトに顔を向けた。

 ちょっと待って!

 横になるタカトは、頭上の先から漂う殺気にすぐさま反応した。

 ティアラの顔を引きはがし、体を起こす。

 しかし、ティアラの荒神化の進行は少し収まってはいたものの、目から赤き光が消え去っていない。

 やはり、ミズイの言う通り、神祓いの儀式とやらが必要なのか。

 しかし、その神祓いの儀式とは一体何んだ。

 だが、今は、そんなことを言っている場合ではない。

 むさくるしいオッサンたちが、ゆっくりと近づいてくるのである。

 マズイ!

 あのオッサンたち、マジで半端ないって!

 タカトは、立ち上がって逃げようとした。しかし、力ないティアラ腕がタカトの首に絡みつく。

 ケツすら引き上げることができないタカトは、焦った。

「ミズイ! 何とかしろよ! お前! 神だろ! 何とかできるだろうが!」

 ミズイが答える。

「出来はするが、この状態が分からんか! なら、こっちを何とかしろ!」

 ミズイが何だか少し、お姉さんになったような気がする。

 タカトの目測が、ミズイのバストの成長を確認した。

 そう、ミズイもまた、生気を消費していた。幼女になるほどふんだんにあった生気が、なくなっていく。荒神化を押さえるために、体を老化させながら。


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