第311話

 ミズイは、タカトに近づいてくるカルロスとピンクのオッサンを真正面に見る。

「対象認識!」

 そう言い終わると、ミズイは右手を振りぬいた。それと共に、ミズイの体の光が右手に吸い込まれるように消し飛んだ。

 時を同じくして、小門の洞窟の時と同じように、カルロスとピンクのオッサンの頭の上に、いつの間にかタロットカードが浮かんでいた。

 だが、二人は気づかない。

 いまだ、まっすぐに、タカトに向かって歩を進めている。


「未来鑑定! オープン!」

 その言葉を合図に、目の前のカルロスとピンクのオッサンの頭の上のタロットカードが表に返った。

 そのカードは逆さになった恋人のカード。

 カルロスとピンクのオッサンは、まるで稲妻にでも打たれたかのように、けれんし、天を見上げる。その目はすでに白目。白目が小刻みに震えていた。

 ミズイのつま先が、力なく、地面についた。しかし、その足は、ミズイの体を支えきれない。力が抜けたミズイの体が、地面に膝まづいた。手をつくミズイの肩が、激しく息をついていた。うつむく額から滝のように汗が流れ落ちている。

 カルロスとピンクのオッサンも、同じように膝をついている。だが、こちらは完全に意識を失っているようであった。

 ミズイは、震える膝に手をやり、体を無理やり引き起こす。

 そして、ふらつく足で、タカトへと歩む。

 ゆっくりとゆっくりと、ビン子の目の前を通り、タカトのもとへ。

 徐々に、ミズイの体が、老いていく。

 先ほどまでは女子高生ぐらいだった女の子が、今や、アラサーの美魔女へと変わっていた。

 小門の時と異なり、今回は二人である。

 神の恩恵の負担も、無数のクロダイショウやオオヒャクテを相手にするより軽いものであったはず。だが、やはり、それでも負担は大きい。

 体を老化させ、生気の枯渇に耐えるものの。供給がないミズイの体にとって、今の状況は非常にしんどいものである。

 ビン子の目の前を、足を引きずるようにして歩くミズイ。

 床に転がる小さなゴミですら、ミズイにとっては大きな障害。

 つまずくミズイの体が、倒れ行く。

 咄嗟に、その体を支えるビン子。

 もう、その様子を見たビン子は、何も言えなくなっていた。

 体を支え、ミズイをタカトのもとへと誘った。

 この女が、タカトとキスをするのは嫌……でも……

 体を張って皆を助けようとしているミズイに対して、自分は何をしているのであろうか。

 いやだいやだと言っているだけで、何もしてはいやしない。

 ビン子は、固く唇をかみしめた。


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