第305話

 ズゴーーン!

 3000号の全体重をかけた一撃で、床が砕けた。

 がれきが飛び、土ぼこりが舞い上がる。

 食われていなくとも、これを受ければ、ぺっしゃんこ確定である。

「死んだか!」

 ケテレツは嬉しそうに、地面にめり込む3000号の口の下を覗き込んだ。


「しぬぅぅぅぅぅ!」

 地面に顔をつけ覗き込むケテレツの背後から、悲痛な叫び声が遠のいていった。

 ケテレツは、振り返る。

 そこには、ビン子をお姫様抱っこしながら、懸命に走るタカトの姿。

 いつの間に!

 ケテレツは、目を疑った。

 3000号の口は、膝にビン子を横たえたタカトの数十センチ上にあったのだ。

 そこから3000号の全体重を乗せた一撃が落ちたのだ。

 決してかわせるわけがない。

 あの状態から、立ち上がって、さらに、あそこまで跳躍したというのか!

 無理だ!

 ケテレツは言葉を失った。

 しかし、現実に今、タカトはあたふたとビン子を抱えて走り去っている。

 逃がすものか……

 どんなトリックを使ったのか分からぬが、今は逃がさぬ!

 絶対に許さぬ……


 だが、そんな時、タカトがこけた。

 薄暗い部屋の中を走るタカトが、何かに躓いたのである。

 その勢いでビン子が放り出された。

 あっ!

 倒れ行くタカトは、飛んでいくビン子を目で追った。

 しかし、ココからでは、どうしようもない。

 いや……やばいのは俺だ!

 タカトの思考は、ビン子の事より自分のことに切り替わった。

 なぜなら、目の前に、大きな制御装置の角が目の前に迫ってきていたのである。

 こんなものに顔面をぶつけたら、イケメンの俺の顔が、つぶれてしまう。

 これは、由々しき緊急事態!

 許せ! ビン子!

 タカトは、制御装置に手をついて、自らの体を支えた。

 間一髪、タカトの顔面は、衝突からの崩壊を免れたようである。

 まぁ、ぶつかっていたとしても大して変わらないと思うのだけど。

 一方、ビン子はゆっくりと飛んでいく。

 頼みの綱のタカトは裏切り、自分の顔面を守ってしまった。

 もはや、空飛ぶビン子を守るものはいやしない。

 このまま地面に衝突か。

 そんな時、ビン子の体が、何者かによって、受け止められた。

 そこには、ビン子を抱くコウスケの姿があった。

「ビン子さん、大丈夫ですか……」

 顔をあげるビン子は、覗き込むコウスケと目が合った。

 これほどまでにコウスケが頼もしく思ったことはなかった。

 もしかしたら、タカトなんかよりコウスケの方が男らしいのかも……

 頬を赤くするビン子であった。


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