第304話 センスねぇな……
「目障りだ! 消えろ!」
ソフィアの剣が、ミズイに真っすぐに落ちた。
その瞬間、ミズイの体が金色に光る。
光の光球がミズイの体を包みこむと、ソフィアの一撃を跳ね返す。
ガキン!
「ちっ! 神の盾か! こざかしい!」
ソフィアは忌々しそうに、両手を突き出すミズイをにらんだ。
だが、そんなミズイもまた、肩で息をしていた。
そう、絶対防壁である神の盾は生気の消耗が激しいのである。
神民を持たぬノラガミであるミズイ。
当然、神の盾を維持する生気は、己が生気を消費する。
フン!
そんなミズイの状況を理解しているのか、ソフィアは鼻で笑うと、
「いつまでもつかな! このノラガミが!」
再び剣を振り上げた。
激しい剣筋が、神の盾にぶつかり火花を散らす。
ソフィアの剣が撃ち込まれるたびに、ミズイが唇を固くかみしめる。
震える手。
だが、ミズイには、これ以外に取る方法がなかった。
必死に防戦するミズイを見つめるタカトとビン子。
そんなタカトは、ふと背後に何かの気配を感じた。
何かぬめーッとしたような圧迫感。
気持ち悪い……
後ろをゆっくりと振り返るタカトは乾いた笑みを浮かべた。
「ハハハハ……なんだこれ」
そこには、醜い黒い塊がまさに今、タカトたちに覆いかぶさろうとしていたのだ。
いうなればそれは、大きなナマコ。
だが、タンクローリー車のタンクほどあろうかという大きさである。
そんな大きな丸みを帯びた先端が、タカトの目の前で真ん中から二つに割けていくではないか。
裂けた先から、薄気味悪いほどの肉々しい赤色が姿を現してくる。
しかも、先ほどからその裂け目からは、白い液体が糸を引き、その自らの重みに耐え切れずにボトリボトリとたれ落ちていた。
唾液にも似たような白い液体がタカトの額にボテッと落ちた。
それを手で拭ぐうタカト。
「これ作った奴……センスねぇな……」
⁉
タカトから出た言葉は、悲鳴ではなく、ただの評価。
しかも、黒いナマコのような3000号を見て発した言葉は、その融合体をディスったものであった。
こんな状況なら、まずパニくるのがタカトのはずなのに、それどころか、顎に手をやり、頭をかしげているのだ。
普通に考えれば、悲鳴か叫び声をあげる場面。
実際に、横にいるビン子などおびえて声すらも出せない。
「俺なら、もう少し、機動性をあげるかな……」
もしかして、タカトは恐怖でとちくるったのであろうか?
今まで数々の融合体を見すぎて慣れてしまったのであろうか?
うーん、それもあるかもしれないが、ちょっと違う。
と言うのも、目の前の3000号は、今までの融合体と大きく形態が異なってるのだ。
黒い塊についた触手がウネウネとしている。
確かに見た目はいいとは言えない。
だが、その様子は完全に人間の面影を残していないのだ。
それはまさに、黒いナマコ状のイソギンチャク。
そう思ってしまえば、確かに怖くない。
その上、その背中には十字架のようなものが刺さっているのだ。
デザインセンスのかけらもあったものじゃない。
タカトの融合加工の技術者としてのプライドが拒絶するのである……
「コイツ……センスがないな……」
だが、この一言は、強烈に響いた。
えっ? 誰にって?
そう、この3000号の製作者であるケテレツにである。
ケテレツは、この言葉を聞いた瞬間、激しい怒りにとらわれた。
「お前には、この融合体の美しさが分からないというのか!」
――あの少年には、融合加工の技術者としての才能がないのだ! きっとそうだ!
だが、ソフィアが持つタマホイホイには、人と神の生気の純粋な混合物が仕込まれていた。
いくら天才と自負する自分が何度も試みても、決して混ざることが無かった人と神の融合物。
あれほどまでの純度で合成された人と神の混合物をつくる少年である。
もしかしたら、自分よりも才能が有るのかもしれない。
そんな、彼が、センスがないという……
だが、やはり受け入れられない!
そんな言葉を認めてしまえば、今までの自分の人生が否定されてしまうではないか。
やはり、この3000号の美しさが分からぬ奴に、才能があるとは言えない!
そう、アイツは生きていてはいけないやつだ。
ソフィア様が何と言おうが、アイツは、生きていてはいけないやつだ!
「3000号! そいつらを殺せ!」
ケテレツは大声で叫んだ。
それを合図にするかのように、タカトたちの上に広がっていた3000号の大きな口が、まっすぐに落ちた。
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