第300話

 強い衝撃がソフィアを襲った。

 ハッと我に返るソフィア。

 どうやら自分は、尻もちをついているようである。

 一体何がおこったのか。

 そうだ、目の前に化け物が……

 鼻に違和感を感じたソフィアは、自らの手を鼻に添えた。

 ぬるっとした感覚。

 これは……

 自らの手につく鼻血を見るソフィア。

 自分の意思に反して流れ落ちる血を見るのは、いつ以来の事だろうか。

 いや、この体になってから、傷など負ったことが無いのである。

 それが、こんなゲテモノまがいの人間に……

 ソフィアの目に、悔しさに似た怒りが沸き起こった。

 しかし、このソフィアが荒神と魔物融合体であるのなら、神の盾が使えてもいいはずなのではなかろうか。いや、荒神であるがゆえに、それはできないのである。そう、荒神には、神の盾が使えないのだ。だからこそ、融合の素材として使うことができるのである。

「この下種どもが! 許さん!」

 立ち上がった、ソフィアが、大きめを見開いた。

誘惑チャーム!」

 ソフィアが大声をあげた。その瞬間、ピンクのオッサンとカルロスの動きが止まる。どうやら、ソフィアが持つ神の恩恵『誘惑』にかかってしまったようである。


 起き上がらるネルに向かって、カルロスとピンクのオッサンが向きを変えた。

 ゆっくり歩きだす二人のオッサン。

 ――くそ! 今度はコチラが3人を相手にするのか……

 ネルは奥歯を噛みしめると、長剣をまっすぐに構えた。

 オッサンたちの足が、速くなる。

 うぉぉぉぉ!

 ネルもまた、長剣を振り上げ、迫りくるオッサンたちに突っ込んだ。


 地下室のドアの外にはコウスケが立っていた。

 コウスケは、部屋の中にタカトの姿がないと分かると、外へと飛び出したのであった。

 その甲斐あって、3000号の触手の魔の手から、難を避けていたのであるが、当の本人は全く気付いてない様子。

 しかし、地下室の前の廊下には、人影が全く感じられなかった。

 守備兵たちの姿が全く見えないである。

 誰も近寄ってこない。

 ソフィアの命令に従って近寄らないのか。

 いや、ソフィアの誘惑によって、支配されているのであろうか。

 だが、戦うすべを持たぬコウスケにとっては幸いであった。

 廊下を行ったり来たりとタカトの姿をくまなく探す。


 そんな時、奥から、足音が駆けてくる。

 コウスケはギョッとした。

 その足音は一つではない。

 二つである。

 一つは、ペタペタと裸足の足音。

 もう一つはトットットッと軽い音、どうやら子供の足音か?

 その二つの足音は、まっすぐにコウスケのもとに近づいてくる。

 いや、この地下室めがけて突っ込んでくるのだ。


「タカト!」

 コウスケは、足音の主がタカトであると分かると叫んだ。

 だが、タカトはガン無視!

 コウスケの横をすり抜けて、目指す地下室へ一直線!

「ミズイ! この奥にタマホイホイがあるんだな!」

「あぁ! この奥にある!」

 タカトの後ろを走る幼女が、息を切らしながら叫んだ。


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