第288話

 ケテレツは、アルダインの神民であると同時に第三世代の開発者である。そのため、アルダインからの信用は、少々高かった。そのケテレツがアルダインに推薦したのである。ソフィアを人魔管理局の局長に据えてみてはどうかと。ソフィアの姿を一目見たアルダインは快諾する。もしかしたら、この時に誘惑にかかっていたのかもしれないし、そうでないかもしれない。知恵のあるソフィアは、ケテレツを巧みに使い、今の地位に上り詰めたのである。人魔管理局の局長になったソフィアは、人魔収容所を管理する。収容所の中の人間は二度とでることはできない。もう、ソフィアにとって食事に困ることはなくなったのである。そんな時、ケテレツが3000号を開発したのであった。最初、ソフィアは3000号を見た時、嫌悪した。まずそう……とても、食いたいと思わなかった。しかし、どこからかいい匂いがするではないか。そう、女神の血が3000号の体内に蓄積されていたのである。その匂いを嗅いだ瞬間、ソフィアの口から大量のよだれが垂れ落ちた。その血液を飲みたい……そんな訳の分からない衝動がソフィアを襲ったのである。ケテレツからその血を奪い取ったソフィアは、一気に飲み干した。体にしみこんでいく感覚。それと共に、昔、忘れていた感覚が、ふと沸き起こってくる感じがした。ソフィアは、荒神と魔物の融合体になる前の記憶がなかった。そして、融合体になった後も、常に食う事。安全に人を食う事のみを考えていた。自分が何者であったかなど考えたことが無かったのである。しかし、この血を飲んだ瞬間、何やら昔の情景が浮かび上がってくる。自分が魔人であったときの事であろうか。獅子の顔をした魔人と楽しく話す自分。獅子の顔をした魔人と戦場を駆け抜ける自分。常に、自分の傍らには獅子の顔の魔人がいたような気がする。何か大切な思い出。決して忘れてはイケなような思い出……しかし、それを必死に思い出そうとしても、霞がかかったようにハッキリと見えない。ソフィアはケテレツに命令した。もっとこの血を寄こせと。ケテレツは喜んだ。この神の血をソフィアにささげることによって、ソフィアから自分の血を与えると言ってくれたのである。がぜんやる気がわいたケテレツであるが、3000号についている荒神は1人だけ、生成量に限りがある。そんな時に、ビン子が現れたのだ。このノラガミを3000号に融合すれば、血液の生成量は2倍になるはず。これでソフィア様からもっと血をいただける。ケテレツの喜びは、いかほどであったであろうか。


 ケテレツが講釈を垂れている横で、真音子が懸命にビン子を救おうとしていた。

 暗い部屋の中に、真音子の白き刃の軌道が無数の弧を描く。

 しかし、触手が多い。

 至る方向から真音子を拒絶する。

 この3000号、よほどビン子がお気に入りなのであろうか。

 ちっ!

 真音子の剣がはじけ飛ぶ。

 触手によって、真音子の剣が奪われた。

 咄嗟に、己がふとももに巻き付けた数本のナイフに手を伸ばす真音子。

 しかし、その動きは少々遅かった。

 真音子の腕が触手によって、抑え込まれた。

 次々と伸び来る触手が、真音子に巻き付く。

 うぐぅ!

 真音子の体が締め上げられと共に、うめき声が漏れた。

 ちっ! ここまでか……

 真音子は必死に懐に手を伸ばす。懐の中には、自爆用の火薬が入れられていたのだ。

 せめてビン子さんだけでも……クソ!

 真音子は、爆薬を点火することをためらった。

 その瞬間、真音子の体が悲鳴を上げる。

 強く、真音子の体が締め上げられたのである。

 ぐがぁぁぁ!

 真音子の意識が飛びかける。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る