第262話 ソフィア(2)

 ソフィアがいる執務室の外の廊下からパタパタと走る音が近づいてくる。

 ケテレツが、急いでソフィアの執務室に駆け込んできた。

 年のころは70歳ぐらいであろうか。

 ぼさぼさの頭に、ところどころ抜け落ちた歯が目立つ。肌の色は褐色にくすみ、大きく見開かれた瞳。見た目はまるでゾンビである。

 ケテレツはドクターである。神民病院で夜勤の仕事を手伝っている。しかし、この人魔収容所で、通い詰めいろいろと研究をしているようであった。人魔収容所で研究するにあたり、ソフィアにいろいろと目をかけてもらっている訳なのである。まぁ、ソフィアには頭が上がらないのは無理からぬことである。


「ソフィア様、お呼びでしょうか」

 ソフィアは、立ち上がった。

 そして、机に勢い良く書類を叩きつけると、ケテレツに命令した。

「収容所内に、侵入者が入ったようだ、また、それに伴って、貯蔵室の収容者も逃げているらしい。全て殺せ!」

「えっ! 殺して構わないんですか! 食うには鮮度が大切といつもおっしゃられていたのでは……」

「そんなことは言ってられん。この事が外に漏れたら魅惑チャーム範囲を広げなければならん」

「いいではありませんか……ソフィア様ならそれぐらい造作もないことかと……」

「お前は馬鹿か! 腹が余計に減るだろうが!」

「確かに……分かりました。我がペットたちを使って、駆逐してまいります」

「頼むぞ!」

「そのあかつきには、その死体どもは私にいただけますでしょうか?」

「好きにして構わんぞ!」

「御意」

 ケテレツは、急いで執務室から駆け出していった。

 相変わらずその足音はパタパタと音がする。

 画に股の足に履かれたスリッパが、足に合っていないのではないだろうか。


 だが、ケテレツは走りながら思った。

 ――ソフィア様はよく食うからな……そうはいっても、後で絶対に文句言うよな……

 ケテレツは知っていた。

 ソフィアの正体を……

 ソフィアが荒神と魔人の融合体であることを知っていたのだ……

 しかし、ソフィアの見た目はどう見ても人間……いや、人間と言うより、神の姿であろうか……

 そう、ビン子も人間と変わらぬ姿をしている。神の中には人と同じ姿の者もいるのである。

 その荒神と、魔人が融合……

 となると、容姿は神であっても、中身は魔人と言うことなのか……

 いやその前に、荒神だと荒神爆発の可能性は無いのだろうか。


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