第261話 ソフィア(1)

「ちっ! うっとおしいですわ!」

 蝶を模した大きなメガネが、廊下を縦横無尽に飛び回る。次々と真音子の剣が守備兵の首をはねていく。

 廊下の壁や床には、あたり一面血しぶきが飛び散っている。

 何という酷い現場であろうか……

 いや、いくら身バレしないとはいえ、ここにいる守備兵たちは、融合国の守備兵である。いわゆるお仲間……のはずなのですが。それを一切の躊躇もなく、次々と首をはねていく。マジでこの女、ちょっとおかしいではないでしょうか……

「お嬢! これでは埒があきませんわ!」

 イサクが両手に掴んだ守備兵の頭を、胸の前でぶつけ合う。

 顔面がつぶれ鼻から鼻血を出しながら守備兵たちが床へと倒れ込む。

「分かっています! とにかく! タカト様のもとへ!」

「ですが! お嬢! あの兄ちゃんたち、どこにいるのか知っているんですか?」

「やかましい! がたがた言わずに探さんかいボケ!」

「ヘイ!」


 警報が鳴り響く収容所内

 ソフィアは執務室でその警報を聞いた。

 咄嗟に顔をあげるソフィア。

 次の瞬間、あわただしく一人の守備兵が、部屋に飛び込んできた。

「失礼いたします! 賊が収容所内に侵入! それに呼応するかのように、貯蔵室の収容者達が逃走中との事です!」

 ソフィアは一瞬、言葉を詰まらせた。

 一体、何が起こっているというのだ?

 ココは人魔収容所だぞ。

 泣く子も恐れる人魔収容所。

 賊など怖がって、誰も侵入してくることなどなかったのに。

 訳が分からないソフィア。

 だが、ココで焦りは禁物だ。なぜなら、まだ、応接室にはアルテラがいるはず。

 早急に処理しないと、アルダインの耳にこの騒動が届いてしまう。そうなると少々面倒である。

「守備兵! 今すぐケテレツを呼べ!」

 ソフィアは立ち上がると大声で叫んだ。

 あわただしく、守備兵がドアを閉め、走り去っていく。

 ――もったいないが、全て廃棄だ!


 廊下で守備兵と交戦する真音子とイサク。

 その先のT路地になった廊下を、守備兵たちとは明らかに異なる一団が走っていくのが見えた。

 そう、その一段の後ろには、なぜか怪獣がトコトコと走ってついていくのである。

 明らかに着ぐるみ……

 なんでこんなところに着ぐるみが……

 そして、その怪獣着ぐるみの背を一生懸命背にビン子が押しているではないか。


「ビン子さん!」

 真音子は叫んだ!

 しかし、懸命に走るビン子には届かない。

 もう、真音子から見える廊下の奥の視界には、ビン子たちの姿は消えていた。


 あれは、明らかにビン子さん。

 だが、タカトの姿は見えなかった。

 もしかして、ビン子が一生懸命に押すあの怪獣。

 あの着ぐるみの中にタカトがいるのかもしれない。

「イサク! こっちだ!」

「合点しょうちのスケ!」

 真音子とイサクはビン子たちが走り抜けていった廊下に向かって走り出す。

 

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