第256話 検査室(1)

 真音子とイサクは、死体の山から、姿を現した。


 ――この死体はソフィアが食べた後なのか……

 真音子は、死体の山を睨んだ。


 ――もしかして、タカトを呼んだのも、食うためか……

 いや、この死体の量である。今更、タカト一人ぐらい連れてきたところで、変わりはないだろう。


 真音子は今一度、死体を観察した。

 ――人魔も混ざっているのか……


 !?


 その瞬間、真音子は理解した。


 タマホイホイは、人魔を呼び寄せる。

 ソフィアは、人を食う。そして、人魔も食う。

 ならば、人魔をタマホイホイで呼び寄せればくもなく食料を調達することができるではないか。自然とこの人魔収容所に人魔から集まって来るのである。

 ヤツの狙いは、人魔の駆逐ではない。

 ――人魔の収穫だ……

 人魔症を、発生させるだけ発生させ、ココに集める。

 そのためには、タカトからタマホイホイの製造方法を聞き出す必要がある。

 だが、真音子は知っている。タマホイホイは、タカトのタマタマからタマタマ出来たティッシュをホイホイ。

 ソフィアが作り方を知ればタカトは、ココから出る事は叶うまい。

 死ぬまで搾り取られだけ。


 タカトの命が危ない!


「タカト様!」

 とっさに真音子は死体が廃棄された部屋を飛び出した。

 腐った死体が目の前に吊るされようが、決して動じなかった真音子が明らかに動揺していた。

「お嬢!」

 慌てたイサクが真音子の後を追った。


 話戻ってこちらは貯蔵室。

 移送命令書をコウスケがちょうど書き終わったところであった。

 カルロスが、胸を押さえふらつきながら戻ってきた。

 良かった! カルロスさん、死んでなかった!

 だが、足が小刻みに震えているのは気のせいだろうか? いや、体には結構ダメージが残っているのかも。もう……年だもんね。


「タカト君、そこのコウスケ君と服を交換してくれないか……」

 カルロスは、口に滲んだ血を手で拭いながらつぶやいた。


「コウスケ君が、この移送命令書を検査官に見せないといけない……」

 カルロスは、傷ついた胸をストレッチするかのように、少し背を反った。

 タカトは考えた。

 確かに第8のセレスティーノの神民はコウスケである。コウスケが、この命令書を提示するのが一番自然である。

 しかし、目の前のコウスケの格好は、パンツの下着姿である。身にまとうものは、怪獣の着ぐるみだけである。さすがにそれでは格好がつかない。いや、それどころか、命令書そのものを疑われかねない。当のコウスケ自身も、その怪獣の着ぐるみのせいでこの貯蔵室に放り込まれているのである。

 背格好が似ているタカトの服をコウスケが着れば、まだ、幾分か格好がつくと言うものだ。


 理由は分かる……だが……何か釈然としない。

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