第254話 貯蔵室(2)

 コウスケは、そんなタカトを放っておく。タカトのバカはいつものことだ。

「ビン子さん、名前を書かないといけないので、正しい名前を教えてください」


「えっ! 私、ビン子はビン子よ?」

「ビン子さんのビンはどんな字ですか?」


「えっ……タカトがつけたらから、よく知らないけど、貧乏神のビンじゃない?」


「そんな、それはあんまりですよ……」


 コウスケはタカトをにらんだ。

「タカト! お前、もう少し女性をいたわるという気持ちがないのか! よりによって貧乏神のビンとは! ビン子さんに失礼だぞ!」


 タカトは勢いよく立ち上がった。

 腕を腰に当て、偉そうに反り返る。


「ばぁぁぁかかぁ! ビン子のビンは貧乏神のビンではないわ!」


「えっ!」

 コウスケは驚いた。

「えっ!」

 ビン子も驚いた。

 というか、あなた自身の名前でしょが……


「もう一度言う! お前は、ばぁぁぁヵかあぁぁぁかぁぁぁ!」

 タカトの目が凄い偉そうだ。殴りたくなるほど偉そうだ。


「ビン子のビンは貧乏のビンではない! 『嬪』と言う字のヒンなのだ。そう、嬪子ビンコは、位が高い女の子と言う意味だ! そして、どこぞの国の英雄本多忠勝なんたらの孫娘『ビン姫』にも通じているのだ! すなわち、とても位が高いお名前なのだ! 一同! ひかえおろう! 頭が高ァァァい!」


 はははぁぁぁ!

 コウスケとビン子は、頭を地にこすりつけた。

 なんで? ビン子も……


 いやぁ、しかし、驚いた、ビン子のビンは貧乏神のビンでなくて、中国の後宮の高位のひんだったとは驚きだ。もしかして、ビン子ってかなり上位の神様なのだろうか? タカトはそれを知っていてつけたのだろうか?

 いや違う……あのタカトの顔、絶対に、今とっさに思いついただけだ。

 と言うことは、やっぱり、貧乏神のビンだな……きっと。


 だが、意外とタカト君、学があるじゃないか。すごい! すごい!

 もしかして、神民学校に通っているコウスケよりも知識があるのかも。

 そう言われてみれが、道具作りの知識にしてもそうである。タカトの知識には驚かされっぱなしだ。

 もしかして、権蔵が、とても賢いとか?

 いやいや、権蔵は奴隷である。第一世代の融合加工の知識は有っても、やはり学はない。駐屯地で働く日々、ガンエンに字を教えてもらっていたほどである。そのせいか、第一世代以降の融合加工については、本を読んで自ら知識を得ることができなかったのである。

 とすれば、タカトは、どこからこの知識を得たのであろうか。

 学校に通えないタカトは、ゴミをあさる。道具の配達帰りに、ゴミ捨て場を見て回るのである。そこに食べ物が落ちていれば、すぐさま口に、だから、お腹を壊すのである。言わんこっちゃない! いやいや、食べ物が目当てではない。そこに捨ててある本が目当てなのだ。誰も読まなくなった本をかき集めては、本棚に並べていくのである。そう、タカトの本棚の本は、全てゴミ捨て場から拾ってきたものである。子供のころからその本を読み漁る。権蔵に字を聞きながらページをめくる。ほどなくして、権蔵に聞かなくても自分ですらすら読めるようになっていた。ますます、本に没頭するタカト。タカトはいろいろな知識が詰まった本が大好きだった。エロ本から専門書に至るまで、あらゆる本を拾っては読みあさった。ただ、恋愛ものだけは意味が分からなかったのか、ビン子にあげていたようだ。



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