第251話 ピンクのおっさん(4)

 カルロスは、なだめるように伝えた。

「正式の名前を書いておかないと、いざっと言う時に困るだろう。なんせ、失敗は許されないんだから。分かるよな」

 うつむくピンクのオッサンは、小さくうなずいた。

 ここにいる皆のために、頑張ろうっという健気な気持ちがにじみ出ていた。

 意外とかわいいと思ったのは、作者だけではないはずだ。

 これって恋?

 違うわーーい!

 なんか、デジャブ!


 ピンクのオッさんは、小さい声でつぶやいた。

「私の……本当の……名前は……です」

 牢に座る皆が、耳に手を当てた。

 だが、聞こえない。

 そのが体の大きさの割に、声があまりにも小さい。

 カルロスは、聞こえたかどうかをコウスケに確認するために目をやった。

 コウスケは、首を振る。

 コウスケにも全く聞こえていなかったようだ。


 仕方なく、カルロスは、再度、お願いした。

「すまん。よく聞こえんかった。もう少し大きな声で、言ってくれんか」

 ピンクのオッサンは、スカートを握りしめながら、小さくうなずいた。

 そのスカートを握る手は、ごつごつと角ばっている。

 まぁ、ピンクのオッサンなんだから仕方ないよね。

 だがしかし、その手はよく見ると、傷だらけ。過去、幾度も痛めつけられたかのように無数の傷が走っていた。そして、両手の甲にある本来ゴツゴツは、平らにつぶれて形を失っていた。


 よほど、自分の本名を明かすことが嫌なのだろうか。

 もしかして、ものすごく変な名前とか。

 聞いた瞬間に大爆笑!

 でも、大丈夫、そんな空気の読めないタカトは、今はいない。廊下でタマを探しているんだから。安心していいぞ! ピンクのオッサン!


 意を決したピンクのオッサンは、固く目を閉じて声を張り上げた。


「私の名前は! ゴンカレエ=バーモンド=カラクチニコフでず!」


 はて、この名前どこかで聞いたことがあるような……

 人々は笑うどころか、しばらく考えた。

 あれれ……

 ……


「なんだと!」

 とっさにカルロスが立ち上がった。その表情は、まさに、驚天動地の驚いた表情。いや、そんな生易しいものではない、驚きのあまり、そのあとの言葉をまさに失っているような感じであった。


 皆が、そんなカルロスの様子に驚いた。

 一体なんだというのだ。

 もしかして、このピンクのオッサンは、名が知れたオカマ! キング・オブ・オカァマ! いや、クイーン・オブ・オカァマなのか!


 徐々に落ち着きを取り戻したカルロスがつぶやいた。

「本当にゴンカレエ=バーモンド=カラクチニコフなのか……あの、地下格闘界、無敗チャンピオンにして、唯一奴隷の身分から一般国民に自ら返り咲いたという伝説の男、ゴンカレエ=バーモンド=カラクチニコフなのか……」

 小さくうなずくゴンカレエ、いや、ピンクのオッサンでいいや。


「こんなに頼りになるお方が、いてくれるとは……」

 カルロスは、ピンクのオッサンの手を取った。


 えっ……まじで凄い人なの?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る