第250話 ピンクのオッサン(3)

「この白紙委任状、使えないですかね?」


 その紙を広げるコウスケ。

 白紙の紙に、セレスティーノのサインと押印があった。セレスティーノのサインについてはなんかアイドルのサインみたいで、何をかいているかよく分からない。だが、セレスティーノ本人はこのサインがカッコいいと思っているに違いない。絶対だ!

「これは使える!」

 カルロスの表情はほほ笑んだ。先ほどまでの鬼軍曹の様な顔は、風呂に浸かるおっちゃんのようにのほほんと緩んでいた。

「よし、コウスケ君! これを輸送命令書として使う。ここにいる囚人たちを、第八の宿舎へと移送しろとセレスティーノの命令にするのだ」

「なるほど、騎士であるセレスティーノ様の命令なら、人魔収容所、人魔管理局も文句は言えませんもんね」

「誰か書くものは持ってないか?」

 カルロスは目の前の囚人たちの顔を見渡した。

 しかし、いくら荷物を持ち込んでいたとはいえ、書くものなど意外に持っていなものなのだ。なにせ、収容所に収容されたときには、こんなところに来るとは思っていなかったのであるから。

 ピンクのオッサンもといカレエーナが声をあげた

「私のアイブロウペンシルならあるけど、それでいいかしら?」

「おぉ、それでいい! ぜひ、貸してくれ!」

 カルロスはカレエーナからアイブロウペンシルを受け取ると、ペン先をなめた。えっ、なめた? そのペンって、ピンクのオッサンの眉を書いたものだよね……まぁ、いいか。

 カルロスが、すらすらと移送命令書をしたためる。

 まぁ、もとは第六の駐屯地の守備隊長である。

 お役所仕事はこれでも得意なのだ。

 なにせ、一日のほとんどは、書類かきに費やされていたのである。

 さすがのカルロスも、これにはこたえていた。

 あの頃を思い出したのであろうか、カルロスは、文章を書き終わると、その書類と鉛筆をコウスケに渡した。あとは、お前がかけと言う事だろうか。

 カルロス、なんか、目頭を押さえている。

 もしかして老眼ですか……小さい字を書くとしんどいですからね。

「よし、皆、名前を教えろ! 移送者を特定しておかないといけないからな!」

 囚人たちは、一人ずつ、カルロスの前に進み出て、自らの名前を伝えた。

 一通り名前を聞き終わった、カルロスは命令する。

「次は、お前たちだ」

「えっ、僕は、コウスケ=ボーケティエールです。」

 コウスケが真っ先に答えた。

「そっちは」

 カルロスはピンクのオッサンに名を尋ねる。

「えっ、ワタジ!」

 なぜか、ピンクのオッサンンは、もごもごしている。

 そして、やっとのことでつぶやいた。

「……………………カレエーナ=アマコです」

「嘘だろ……それ」

 カルロスは、ひげをこすりながら反応した。

 まぁ、確かに、どう見てもピンクのオッサンは、オッサンである。

 女の名前などではあるはずがない。

 もっとごつい名前であるはずだ。うん、これは偏見か?

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