第248話 ピンクのオッサン(1)

 カルロスの牢屋をタカトが開けた。

 白い牢屋の奥の壁に無言の男があぐらをかいて目を閉じていた。

 まるで座禅をくむ僧のように、まっすぐと伸びた姿勢は微動だにしない。


「カルロスのおっちゃん、無事でよかった」

「おぉ……あの時の少年か……」


 あぐらをかいたカルロスが目を開けた。

「弓を届けてくれたお方はご無事だったか?」


「まぁ、無事は無事だけど、なんかいろいろあったみたい……」

 タカトは言葉を濁した。

 実際にタカトはエメラルダが受けた酷い拷問のことは知りはしない。

 しかし、その体の傷の様子、男に対する恐怖心、これらを見るだけで、よほどひどい仕打ちを受けたことは容易に想像できる。

 だが、これを、この場でカルロスに話すことは気が引けた。

 もし、話そうものなら、カルロスが逆上することは、タカトでもわかった。

 そういう、面倒なことは、権蔵じいちゃんや、ガンエン、コウエンが一緒にいるときに他の人から話してもらおう。そう、そうすれば、俺は関係ないし。


「それなら何より……」

 カルロスは、そうつぶやくと、また、目を閉じた。

「おっちゃん! ココを出ないのか?」

 カルロスは目を開けず静かにつぶやいた。

「あの方が生きていらっしゃるならそれで良い。そして弓も届いた。ワシに思い残すことはない」

「何、コレから死ぬような事、言ってんだよ!」

「少年よ……ワシは、仲間を見捨てた身じゃ。役目を果たせば、後を追うだけよ……」

 タカトは呆れた。

「馬鹿じゃね! なら、あの姉ちゃんは、俺のハーレムに入れて毎日イチャイチャしてヤロ!」

 タカトの顔がいやらしくニヤけた。

「あの姉ちゃん、オッパイでかいからな! 毎日、飽きるまでもみしだいてやるか!」

 カルロスの目が、タカト強く睨んだ。

 ヒッ!

 タカトは、ビビった!

 まじでビビった。それぐらい恐ろしい眼光である。先程まで世捨て人のようなおっさんの目が、鬼神のごとく力強くタカトを睨んでいた。

 ビン子がすかさずカルロスに語る。

「カルロスさんが会いに行かないとあの人、ずっと一人なんですよ! それでいいんですか」

 カルロスは、ビン子をチラリと見る。そして、もう一度、タカトを睨んだ。

 フン

 カルロスは鼻で笑った。


「そうか。では、そのお方にお会いしに行かねばならまいな」

 カルロスは、ゆっくりと立ち上がった。

 ――えっ? 会いに行っちゃうの? 俺のハーレム計画が……

 チッ

 タカトが、舌打った。

 その途端!

 ビシっ!

 ビン子のハリセンがタカトの頭をはりとばす!

 ビン子さんは、何でもお見通しのようですな。


 しかし、ここは、人魔収容所。誰も外へ出たものがいないのである。

 牢屋の檻を出たとはいえ、まだここは貯蔵室の中である。

 人魔収容所は、その脱獄困難な噂のせいなのか、この貯蔵室の管理は緩い。

 朝昼晩の飯の時ぐらいしか守衛が見回りが来ないのである。

 先ほど、昼飯が出たところであるから、次の夕飯まで後4、5時間は誰も来ないという。

 これは、仮に貯蔵室を抜け出したとしても、人魔収容所から外に出ることは不可能だという自信の表れなのかもしれない。

 ならば、この貯蔵室のドアの向こうには、どんな地獄が待っているのだろうか。

 タカトは、ちらっとドアを見つめて、唾をごくりと飲み込んだ。


 カルロスの牢獄に、ピンクのオッサン、もとい、カレエーナとコウスケもやってきた。

 牢から出たのはいいが、この先どうするのかをカルロスと話し合うためである。

 その間にもビン子が次々と牢を開けているせいか、カルロスの牢に次々と人が集まり始めた。

 それもそのはず、カルロスは超有名人である。

 魔装騎兵の中でも年長者の部類に入るカルロス。

 魔装騎兵の訓練校では鬼教官を務め、第一の魔装騎兵ジャックにも恐れられていた。

 そして、第六の駐屯地では数々の武功をあげる。

 知らぬ者はいない英雄の中の英雄である。

 それが目の前にいるのである。

 だれもがカルロスを頼りに思うのは当然であった。

 カルロスさんなら、何とかしてくれる。

 そう思う囚人たちは、いつの間にか20人ほどに膨れ上がっていた。


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