第219話 終結!神民街人魔騒動(1)


 コチラは、第七駐屯地前のハトネン様ご一行。

 夕日に染まる砂漠の中でハトネンは、今だに神の盾の金色の光を放っていた。


 一之祐の乱舞の勢いは止まらない。

 それどころか、さらに勢いを増している。

 うおおぉぉぉぉぉぉ!

 夕日によって真っ赤に染まる大地。その赤よりもさらに赤く魔血で染まる一之祐は無数の剣筋を今だ引き続けていた。

 すでに、一之祐の周りを取り囲むかのように、切り刻まれた魔物たちの肉塊が壁をなしていた。

 ハトネンの騎士の盾が光の火花をまき散らす。

 重い剣撃を跳ね返すたびに光の壁が大きく揺れる

 一体どれだけの時間、攻撃を受け続けたのであろうか。

 さすがにハトネンも少々疲れた。

 いつかは力尽きるはず。

 そんな思いで耐え続けた。

 しかし、目の前の脳筋バカは、いまだに剣をブンブンとふるい続けているではないか。

 一体、どれだけの神民魔人の生気を吸い出したのであろうか。

 それを思うだけでもぞっとする。

 だが、こいつもただの人間。

 いつか必ずその動きは止まるはず。

 それを待て! ハトネンは自分に強く言い聞かせた。


「ハトネン様!神民魔人の部隊が全滅です!」

 猛然と駆けつけた一人の魔人が息を切らす。


「なんだと!」

 ハトネンは後方の魔人へと目を向けた。


 騎士である一之祐はハトネンの目の前にいる。

 と言うことは、神民魔人と神民兵とのぶつかり合いか。それならば想定内。

 とはいっても、やはり神民魔人の全滅はいただけぬ……

 だがしかし、聖人国の神民兵どもを削ることができたのであれば、目的は達したと言うべきか。

 ならば、多少の犠牲も仕方あるまい。


「当然! やつらの神民兵は全滅したんだろうな!」

 ハトネンは騎士の盾を張りながら、後方の魔人に確認する。

 控える魔人は、一瞬言葉を詰まらせた。


「神民兵どもは、全て融合国内へ逃走した模様」

「聞こえん! こっちは今、手が離せんのだ! 大きな声で分かりやすく言え!」

 ハトネンは、想定外の言葉に怒鳴り声をあげた。


 やけくその魔人は目をつぶり声を張り上げる。

「神民兵どもを一人も殺すことができておりません!」


 はぁぁぁぁあ?

 なんだそれぇぇぇぇえ?


 と言うことは、うちの神民魔人どもは、神民兵を一人も殺さず全滅したという事か?

 意味が分からん?

 全く意味が分からん?

 これは一体どうい事?


 ハトネンの目がくるくると回る。

 しかし、その動きはピタリと動きを止めた。

 それと同時にハトネンの毛穴からと言う毛穴からいやな汗が噴き出した。

 目の前で剣をふるう一之祐がにやりと笑っているのだ。

 魔血で真っ赤に染まる一之祐の顔から、白い歯が夕日を散らす。


 まさか……

 まさか……まさか……

 まさか! まさか! まさか! まさか!

 最初からこれが狙いか!

 そんな! あほな! ……こんな無謀な作戦! 誰が実行するというのだ。

 なんとなく……いや、うすうすだが気づいてはいた。しかし!普通、本当にやるか……

 イヤ! イヤ! イヤ! イヤ! 目の前の脳筋バカなら絶対ヤル! こいつなら喜んでやりそうだ!

 いかん……

 いかん……いかん……

 やっぱり、ダイスの目に従うべきだった。

 確率が下がっている事実に目を向けるべきだった。


 その瞬間、ハトネンを包む光の壁が消え去った。

 ハトネンの意識とは別に突然、騎士の盾が消失したのだ。

 咄嗟に後方に飛びのくハトネン。

 いつの間にか魔人国と聖人国の境界がハトネンの足元まで後退していた。

 神民魔人が死んだことにより、魔人国と聖人国の神民数のバランスが均衡し始めた。

 さらにその境界はいまだに後退し続けている。

 もう、ここは、魔人国のフィールドではない。

 既に聖人国のフィールドに戻っているのだ。


 やばい!

 ヤバイ! ヤバイ!

 ヤバイぃぃっぃぃぃぃぃぃぃ!

 ハトネンは後ろを振り返ったかと思うと、脱兎のごとく逃げ出した。

 叫び声をあげ無様に逃げていく。

「撤退! 全軍撤退だぁぁぁぁぁっぁ!」

 叫び声にも似た撤退の声がハトネンの後を追った。

 周りに控える魔人たちが呆気に取られてハトネンの姿を目で追った。

 その変わり身の早さ。

 魔人たちは、全くついていけなかった。

 先ほどまで騎士の盾を張りイキっていた男が、今は、猛然とダッシュで逃げている。

 既に、その姿は小さくなり、確認することも難しい。

 我に返る魔人たち。

 とり残された魔人魔物たちは慌てて逃げ出した。

 夕焼け空に撤退の遠吠えが鳴り響く。


 一之祐もまた、限界であった。

 騎士の盾が切れたハトネンを目に前にして、あと一歩踏み込むことができなかった。

 剣を砂にたて、膝をつく一之祐は、肩で激しく息をする。

 あいつら、ついにやりおったか……







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