第215話 誰がための光(4)

 アルテラの頭上に魔人達の爪が一斉に襲った。

 それに呼応するかのように、浮き上がる背後の白き羽。

 あわせて4枚の白き盾が、魔人たちの爪を跳ね返す。

 いや、跳ね返すというより、まるで磁石が反発するかのように盾にあたる直前で方向を変えるのだ。

 そんな四枚の白き盾でアルテラの身は守られていた。

 

 次々に繰り出される魔人達の攻撃を、4枚の盾が予測するかのようなスムーズな動きで受けきっていく。

 そのおかげで、アルテラには、一切の攻撃が届かない。

 余裕のアルテラは腕を組みニヤッと笑う。


 双眼鏡をのぞくオオボラはあきれた声を出した。

「アルダイン様の親バカもココに極めリですね。国宝級の白竜の鱗。惜しげもなく全4枚をアルテラ様にお与えになるとは」

「いくら堅固な盾があったとしても使い手が使えなければ意味がありませんよ。アルテミスの感知能力とそれを制御するバックパックの動きがあってこその防御能力です。しかも……」

「しかも?」

「あの白竜の盾には攻撃すら当たっていません……」

「え? どういうことですか?」

「要は盾の前面に位相反転フィールドが展開されているんです。それによって、あらゆる攻撃が360度向きを変え、攻撃者に跳ね返るんです」

「なんという無茶苦茶なwwww」

 オオボラは、双眼鏡から目を離す。明らかにその目は馬鹿にしていた。

 そう……もしかしてという顔で、再びローバンに尋ねたのだ。

「やっぱり、それらにも変な名前ってついてたりします?」

 もうなかば半笑いのローバン。

「えぇ、確かバックパックの腕は『マからまへと大手ネットサイトのロゴのように矢印が付いた! 生死をかけろ! あっ!シュ(ま)(マ)ン』で、その制御機構は『帰ってきた!お脱がせ上手や剣(棒)』。そして、感知能力は『美女の香りにむせカエル』と『恋バナナの耳』そして、『裸にメガネー』、それに伴った照準機能は『パちんこ玉シャブロー』でしたっけ。当然、位相反転フィールドにも……もう、口にするのも恥ずかしい……」

 しかし、ローバンは一息ついて静かに続ける。

「でも、技術としてはすごいですよ。これを作った人は天才かもしれません……」

 ふーんと納得するようなオオボラは一つの疑問をぶつけた。

「そんな技術があれば、今まで、なんでクロト様は、2.5世代に転用しなかったんですかね?」

「そう、どうして軍用に転用しなかったのか不思議なんですよ。そして、クロト様も、この技術を知っているなら、もっと他のテン5の魔装装甲に応用したらいいのに、頑なに拒んで。やっと、アルテラ様の魔装装甲でその重い腰上げたんですよ。本当に勿体ない」


 魔人たちの攻撃を白き盾で受け続けるアルテラ。

 退屈そうにあくびをしたかと思うと、おもむろに両腰につく、円錐状の筒の側面に埋め込まれたトリガーを引き出した。

 それに伴って、先ほどまで筒の後方から噴き出していた空気が勢いよく反転した。

 今度は、筒の中に空気だけが急激に吸い込まれていく。

 これは、もしかして……裏モード⁉ スカートまくりま扇ジンベイザメモードRXのなせる技か!

「もう、お遊びはおしまい!」

 アルテラが左足を引いて体を支えた。


「これでもくらえぇぇぇえ!」

 トリガーを引く。

 ガッ! ガッ! ガッ! ガッ! ガッ! ガッ! ガッ! ガッ! ガッ!

 小刻みな連続音が鳴り響く。

 その音と共に、アルテラの体が激しく振動する。

 右足を伸ばし体の重心を下げるアルテラの体は、その振動に耐え続けた。

 しかし、その反動に抵抗する左足は、少しづつ砂に埋もれ後退していた。


「うりゃぁぁぁぁぁ!」

 その瞬間、目の前の魔人から無数の魔血が噴き出した。

 アルテラは自らの埋もれた左足を伸ばす右足と入れ替える。

 体を軸として、ぐるりと一周、円を描ききる。

 それに従い、アルテラの周りを取り囲む魔人たちから、魔血が一斉に噴出した。


 ハチの巣上に体に穴をあける魔人たち。

 魔人たちの表情は一体何が起こったのか分からない様子。

 この少女は何をしたというのだ……

 穴と言う穴から魔血を噴き出し崩れ落ちる魔人たち。


 アルテラの円錐状の頂点から無数の弾丸が発射されたのである。

 その弾丸は魔人たちの体を貫ぬいていく。

 円錐状の背後から、空気を取り込み高速の弾を射出しているのである。

「うりゃりゃりゃりゃりゃぁぁぁぁぁ!」

 アルテラは、その手を止めやしない。

 激しい振動と発射音が止まらない。

 いつの間にか、アルテラの周りを魔人たちの屍が取り囲んでいた。


 カタカタカタ……

 アルテラの円錐状の魔装装甲から軽い音がこだまする。


 残段数0


 全弾打ち尽くしたアルテラは、立ち尽くす。

「か・い・か・ん!」

 打ち方をやめたアルテラが恍惚な表情で天を見上げていた。


 その瞬間、アルテラの顔に一つの影が落ちてきた。

 それは、空を舞う魔人のものであった。

 おそらくコウケンがうち漏らした最後の一匹だろう。

 魔人はコウケンの死後、神民兵たちの後を追った。

 騎士の門を目の前にして争う人の影。

 神民どもの虐殺に間に合ったと余裕をかます。

 しかし、緑色の眼下に広がるのは、赤い血の単環。

 しかも、その中心には、我が同胞の魔人ではなくピンクの魔装騎兵が立っている。


 マズイ……


 その瞬間、空を舞う魔人の羽は、上空へと舞い上がった。


 天をにらみつけるアルテラの瞳。

「逃がさん!」

 白竜の四枚の盾が、瞬時に、羽へと折りたたまれ、バックパックへと接着された。

 円錐状の背後から、今度は勢いよく空気が噴き出した。

 まさか、飛べるというのか!

 地面から砂塵が舞い上がる。いや、もうその勢いは砂嵐か。

 アルテラの跳躍と共に、その体は加速する。

 放たれた矢のようにアルテラの体が天へと跳ねあがる。

 まるで地面から立ち上る光の柱のように勢いよくまっすぐに空の魔人へと飛んでいく。


 慌てふためく魔人の槍がアルテラを上空から襲う。

 しかし、2枚の羽根が、アルテラを守るように盾へと変わり、その刺突を跳ね返す。


 交差する二人。


 天に上ったアルテラは、太陽の光を背に、身をひるがえす。

 魔人の後方でホバリングするアルテラ。

 追撃に打って出ないようだ。

 もう勝負はついたというのであろうか。


 天を見上げる魔人の頭。

 しかし、その頭は、天から落ちゆく自分の体を見つめていた。

 あれは……俺の体……

 魔血をまき散らし落ちていく頭と体。

 一瞬の間に、アルテラの一刀が首をはねていたのだった。


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