第208話 苦肉の策(4)
魔人国フィールド最前線に位置するハトネンは、10面ダイスを空中に投げ、それをさっと右手でつかみ取る。
すかさず、そっと左手の上に置き、右手を開く。
ダイスの目は3。
先ほどから出ていた4の目よりも小さくなってしまった。
「なんでだぁ! どうして、5以上の数字が出ないんだ!」
そのダイスは『疑念のダイス』と呼ばれる10面ダイスであった。
『疑念のダイス』は、自分が見たい未来を念じながら投げると、その事象が起こる確率をダイスの目で表してくれるという、すごい超高級のアイテムなのだ。(タカト談)
まぁ、強いて言うならSSRクラスのアイテムである。
先ほどからハトネンはダイスを何度も上空に放り投げては、つかむんでは手の甲に押し付けることを繰り返している。
どうも、意地でも5以上の大きな数字を出したいようである。
この魔神騎士のハトネンは、ネズミの魔人である。
しかし、そのネズミ顔とは似つかわしくなく、体はほっそりとひょろひよろと細長い。
そのせいか、あまり戦いが強そうな印象はしない。実際のところ、戦いよりも遊び、そう、その中でも魔獣たちを競わせる魔獣バトルが大のお気に入りであった。
しかし、ガメルが第六のキーストーンを奪ったことについて、少々その功績に嫉妬していた。
そして、融合国で起こった神民の人魔化騒動。
あらかじめこの騒動の発生を知っていた魔人国側は、ここぞとばかりに打って出てきた。
その情報通り第7の駐屯地は、ほぼ魔人国のフィールド内に取り込まれようとしている。
どう考えても騎士の盾が使える自分が出ていけば、この勝負は100%勝てるはずなのである。
しかし、先ほどから、キーストーンの奪取の可能性、この戦の勝利の可能性を何度もダイスで占うも、5以上の数字が出てこない。
すなわち、何度やっても勝利の確立が50%以下なのである。
しかも、あろうことか、その数字はどんどんと下がっていく一方。
苛立ちが募るハトネン。
いつもなら、9以上の数字が出ないと行動に移さない慎重なハトネンが、今回に限っては動いた。
やはり、ガメルが第六のキーストーンを奪ったことが影響したのであろうか。
ハトネンの目の前の砂埃の中を一人の男が歩き近づいてくる。
一之祐である。
その一之祐に魔獣たちが、次つ次ととびかかるも、軽く一刀に伏されていった。
しかし、一之助の眼前には、いまだ数多くの魔物の群れが広がっている。
そしてその最前線には、ハトネンが苛立ちを隠せずにいた。
ついにハトネンは、たまらず怒鳴った。
「なんでお前は、魔人フィールドの中を一人でのこのこ歩いてくるんだよ!馬鹿なのか!」
一之助は歩みを止めず、にやりと笑う。
「はぁ? 魔人フィールドなんだそれ? 俺には関係ないな!」
「お前は馬鹿か! 脳内まで筋肉か!」
――あいつは馬鹿か?何を考えているのか本当に分からん……
だが、確かに魔人フィールドが駐屯地を侵食し始めた。この状況では、籠城もままならるまい。
この場合のセオリーは、騎士がキーストーンを持って、融合国内へとつながる騎士の門近くへと撤退である。
その退路を叩くために、神民魔人を駐屯地の背後に配置したのだ。
騎士の盾が使える騎士はキーストーンを守護するはず。
たとえキーストーンを奪えなくとも、騎士の手はふさがっている。
それならば、周りの神民たちをさらに減らすことができれば、これからの勝負はさらに有利になるはず。
だから、ハトネンは、全ての神民魔人を動かした。
間違っていないはず……
しかし、一之助は、眼前を悠々と歩いてくる
一之祐がいくら騎士と言えども、今あいつがいる場所は魔人フィールド内。
すなわち、騎士の盾も発動しなければ、騎士スキルも発動しない。
全くの悪条件。
それも、一人! 一人でのこのこと歩いてくる。
と言うことは、キーストーンは駐屯地内と言うことなのか?
動かす気はないというのか?
いや、このままだと、第六駐屯地の二の舞である。
――そこまでアホではあるまい……
何か策でもあるのか? でなければ、この余裕はどこから来るのだ。
――そうか……奇襲か!
神民魔人をすべて駐屯地の背後に回したことを知って、こちらの本体を狙いに来たのか?
――しかし、ここは魔人フィールドだぞ。聖人国の神民たちも神民スキルは使えない。それどころか、俺には騎士の盾があるんだ! 奇襲なんて、どう考えても無謀だろう!
ハトネンの思考がぐるぐる回る。
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