第206話 苦肉の策(2)

 城壁の上から駐屯地の後方に群れを成す神民魔人の部隊を確認した一之祐は、コウケンに尋ねる。


「おそらく、あの中にはただの魔人も多く含まれていると思うが、神民兵どもを騎士の門へと向かわせるにはあれをどうにかせんといかんだろう」


 コウケンは笑う。

「何、正面から出て、二手に分かれて大きく迂回します。おそらく、神民魔人どもはどちらかの隊がキーストーンを持っていると思い、それぞれ思い思いに追ってくるでしょう」

「それでは、神民兵を第五へ送るという、お前の弁が成り立たんだろう」

「空魔どもには、この駐屯地から攻撃をし、こちらに引き付けます。あの神民魔人の部隊が3つに別れれば、たかが30ほど、数は減ります」

「数は減っても30は多いぞ、魔装騎兵で叩くか」

「いえいえ、まとまって30は多いですが、地の利を活かせば、個々に別れるかと」

「どういうことだ」

「奴らは、自分の足で走っておってきます。一方こちらは、半魔のラクダ部隊です。おそらく、この砂漠の走行で魔人たちは遅いものと早いもので差が開くことでしょう」

「なるほど、空魔どもを駐屯地に足止めしておけば、やつらの隊列は長く伸びると」

「さすがです。そうすれば、後は、地面を這えずるやつらのみ」

「しかし、追いつかれた後はどうする」

「お忘れですか、我ら三兄弟は万命寺にて万命拳を修めた身であることを」

「お前たちだけであの神民魔人たちを抑えられるのか?」

「命令さえしていただければ」

 コウケンは坊主頭を深々と下げた

 その後ろでコウセン、コウテンが、笑いながらうなずいた。

 一之祐は、ため息をつく

「お前たち、死ぬつもりか……あれだけの数、万命拳でもそうそう相手にできるものではなかろう」

「大丈夫です。ガンエン様より万命拳の奥義『奉身炎舞』を授かっております」

「ダメだ。その技はガンエンより聞いておる。己の命を削って気を高める技。勝負に勝っても命を落としては意味がなかろうが」

 三人は大笑いする。

 次兄のコウセンは、ウィンクをしながら一之祐に進言する

「一之祐様の言葉とは思えないぜ。第7のモットーは『己が技を体に刻み、己が命を戦場に刻め』だろうが」

 一之助は、そもそも魔装騎兵などと言うものはあまり気にくわなかった

 武士たるもの、闘う時は純粋に己の腕のみで戦うべきと言う、訳の分からない武士道を持っていた。

 一之祐はあきれて諭す。

「それは、無駄に死ねと言うことではない」

 長兄コウケンが言う

「我らは、万命拳を取得しましたが、その奥義の極限の高みをいまだ知りませぬ」

 次兄コウセンが追い打ちをかける。

「こんな機会、今後もないんだよ」

 末弟のコウテンも同調する。

「そうすよ。コウセン兄の言う通り、こんな時でもないと、ガンエンさまは許してくれないっすよ」

 一之祐は首を横に振る。

「だからと言って、戦場で死ぬと分かっているものを送りだせるか」

 コウテンはあきれて両手を肩の高さにあげた

「一之祐さま、頭固いっすね。誰が死ぬって言ったんすか! 神民魔人たちをちょっとぶちのめしてくるって言ってるだけっすよ」

「だから、そのぶちのめした結果、命が縮むのであろうが!」

「縮んだとしても死ぬわけじゃないっすよ」

「そうだぜ! なにも死なせてくれと言ってるわけじゃないぜ」


 長兄のコウケンは、腕を組み右手の人差し指を自らの顎に添えた。

 フーと一息。

 少し考えたのちにつぶやいた。

 かたくなに拒む一之祐を説得できる材料を思いついたようである。

「では、一之祐様には、一つお願いしてもよろしいでしょうか?」

「なんだ?」

「我らが、神民魔人を叩く間、前方の魔物のと魔人騎士ハトネンをお相手願えますか?特にハトネンを! そうできるだけ、騎士の盾を発動させ続けてください。これは一之祐様にしかできないことです。この攻撃いかんによって我々の命が決まると言っても過言ではありません」

 しばし、考えた一之助が突然笑いだす。

「そういう事か。コウケンさすがにお前は頭がいいな。そういう事なら俺に任せておけ! 心配するな。雑魚とハトネンは俺が引き受ける。お前らは、片っ端から神民魔人をぶちのめして来い!」

「御意!」

 三人は手を胸の前に合わせ、深々と頭を下げた。

「だが、約束だ。決して死ぬな!」

「もちろんでございます」

「了解!」

「ハイっす!」

 三人は笑いながらうなずいた。


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