第204話 想いを掴むもの(7)

 ベッドの下で抱き合うように震えるタカトとフジコ。

 ベッドの隙間から、一対の足がすらりと見えた。

 ゆっくりと顔をあげるタカト

 そこには腰に手を当て、怒っているビン子が立っていた。


「何してるのよ!」

「何って……隠れていまして……」

「隠れて何をしているかって聞いているのよ!」

「だから人魔から隠れてだな!」

「その恰好が隠れただけっていうの!」


 ふとタカトは自分の横に顔を向ける

 そこにはフジコの腰に手を回し、その体を固く固く抱き寄せていた。

 ベッドに飛び込んだ時にでもひっかけたのだろうか。

 フジコの豊満な胸が、ナース服からこぼれ落ち、ピンクのつぼみを地面に落としていた。

 そして、なぜか、もう一つの手が、そのたわわな胸を掴んでいたのだ。

 やったね! タカト君!

 おっぱいを掴むという想いを、やっと掴んだね!


「これは一体どういう事でしょう?」

 タカトは、ぎこちなくビン子を伺った。


「こっちが聞きたいわい! この変態!」


 ビシっ!


 ビン子のハリセンがタカトの頭にヒットする。

 タカトの頭が勢いよく床へとたたきつけられた。

 しかし、運よくそこにはクッションが!

 何と!犬女の口からおちた赤いドロッとした塊があったのだ。

 その赤い塊に顔を突っ込む。


 …………


 ……


 美味しい。


 どうやらそれは、ケチャップの塊であった。

 フジコは目を丸くしてベッドの下から飛び出した。

「なんか、お取込み中みたいだから、私は帰るね……」

 ナース服の胸元を急いで隠しながら、あたふたと血まみれの部屋を飛び出していった。


 人間の姿に戻ったスグルは「お尻ラブ」のタンクトップに腕を通す。

「クロト様、神民病院で何か香りがする道具に人魔たちが集まっていましたよ」


 コチラもひと段落したのだろうか、クロトも剣を鞘に納め方をぐるぐる回している。

「それで、その道具は?」


「すみません。セレスティーノに奪われました」

「そうですか。セレスティーノが相手では仕方ないですね。ただ、人魔を引き寄せるのであれば、何とか取り戻したいですね」


「そうは言われても、騎士相手ですよ。絶対に無理ですよ。大体、あの道具、なんか変な匂いがするんですよ」

「変な匂い?」

「僕鼻がいいから余計匂っちゃうんですよ、生臭いというか、イカ臭いというか」

「何ですか?それは!」

 クロトは困惑の表情を浮かべた。


 守備兵たちが神民病院へと駆けつけてくる。

 騒がしい男たちの声が響いてくる。

「あらかた片付けいているな」

「しかし、なんでまた病院にこんなに集まっていたんだ」

「まぁ、おかげで被害が思ったより大きくならなかったからいいじゃないか」

「これは……後片付け大変だな」

「奴隷たちを狩りだして、大掃除だな」


 なぜか、タマホイホイに引き寄せられ、神民病院に人魔たちが集まってきた。

 その人魔たちを、セレスティーノとスグルが、片っ端から潰していく。

 神民街に発生した大量の人魔は、ほぼほぼ駆逐された。

 まだ町の中にも潜んでいるかもしれないが、それは、全宿舎の守備兵、神民兵、騎士たちを動員して駆り出されていた。

 さすがに、騎士たちの監視の下では、人魔管理局の権限とはいえども、片っ端から人魔収容所には収容できない。

 人魔となっていない人間たちに対しても、徹底した人魔チェックが行われた。

 しかし、この神民街の人魔騒動は、大きな争いの火種を飛び散らせた。

 そもそも、今回の事件は人魔管理局のソフィアが起こしたものである。

 なぜ、このようなことを起こしたのであろうか?

 魔人国と通じているであろうか。

 それとも別の目的があるのであろうか。

 しかし、それは、今は分からない。

 だが、神民をはじめとした国民たちは、責任の所在を明らかにせよと声をあげた。

 人魔が紛れ込まないように城壁まで作り、隔離している街で、人魔騒動が起こったのである。当然と言えば当然である。

 その矛先は、政に携わるアルダインへと向けられた。

 アルダインは、早急に手を打つ。

 この騒動は反乱者エメラルダにより引き起こされたものであると、宣伝する。

 エメラルダ討伐を行うも、一般国民を人質にとられ、逃げられてしまった。

 これも自分が至らないためだと頭を下げたのだ。

 これに怒りを覚えた、騎士たちが、エメラルダ討伐の部隊を結成する。

 そして、大きな被害を受けた第5神民街と第7神民街では、深刻な問題が起きていた。

 それぞれの神民数が大幅に減少したため、魔人国との神民数のバランスが崩れたのだ。

 当然、騎士の門内の聖人国のフィールドはその分後退していく。そしてキーストーンを守っている駐屯地はまさに魔人国のフィールドに取り込まれようとしていた。




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