第202話 想いを掴むもの(5)

「ほんと、今日はついてない。次から次に化け物クラスが……」

 オオカミはつぶやいた

「オオカミの化け物のお前に化物呼ばわりされるのは心外や!」

 紙袋の男は、表情は見えないが怒っているようである。

「ほんと……今日が満月でよかったよ」


 オオカミは満月を見上げて力を込める。

 巨大なオオカミは、二つの足で立ち上がる。

 そして、人型へと変わっていった。

 しかし、先ほどのオオカミ型の魔人とは違う、完全に人型である。

 頭も、体も、下半身も

 ……でも、やはり裸ではあった。

 そうだよね……さっきまでオオカミだったんだから。裸だよね。


「俺の経験スキル『メタモルフォーゼ』魔獣回帰からの魔人チェーンジ!」

「なんだと、魔獣状態からさらに魔人になれるのか!」

「驚いた?」

 スグルの鋭い拳が紙袋の男に伸びる。

 かわす男。紙袋のへりが破けちる。

 紙袋の男の回し蹴りが、スグルの頭に落ちてくる。

 それを、上腕で受け止めると、その勢いを利用してその足を掴んで投げ飛ばした。

 宙に浮く紙袋の男は、嫌がり浮かんだ体から蹴りを繰り出した。

 咄嗟に手を離すスグル。

 紙袋の男の蹴りは支えを失い威力をなくす。

 伸びきった足を掴み背負い投げるスグル。

 さすがにココからは、どうすることもできないか。

 しかし、紙袋の男は地面に受け身を取ると同時に、スグルの首を開いた足で刈り取った。

 地面の上を側転するスグルの体。

 スグルは手をついたかと思うと、すかさず前へとはぜた。

 紙袋の男とスグルの体技が激しくぶつかる。

 激しさを増す、拳と拳

 紙袋が徐々に徐々にと破けていった。

 紙袋からのぞく吊り上がった口ととがった耳

 どう見ても魔物のものであった。

 しかし、紙袋からのぞく瞳の色は黒色。


「お前……第三世代か」

 スグルは叫んだ。

「魔人のお前には関係ない」

 紙袋の男は、紙袋を取った。

 そこには、顔中が魔物組織に置き換えらた、醜い魔物のような顔が現れた。

「おいおい……俺らよりもひどいね……それ」

 スグルはつぶやいた。

「同情はいらん」

 男は、脱ぎ去った紙袋から血の入った袋をとりだした。

 それを、ごくごく飲み始めた。

「さて、開血解放もこれで最後。さぁ行くぞ! 『全開放!』」

 男の顔の血管が太く大きく浮き出してくる。

「第三世代は、部分増強だったはず……しかし、その姿、何か所か融合しちゃてるわけ……」

 スグルは男にとびかかった。

 しかし、先ほどとは違い、スグルの拳は男に届かない。

 次々と繰り出されるスグルの拳。

 それらを紙一重でかわしていく男

「ちっ! 感覚増強化か!……」

 男の感覚組織は魔物組織と融合され、その感覚が研ぎ澄まされていた。全組織を開血解放した男にとって、スグルの拳はゆっくりと見えていた。




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